159 仕掛けられたのは……そこからかよ
それから富永氏は深く息を吐き出してから言いました。
「仕掛けられたといっても、俺たちに罪を犯させようという、話ではないぞ」
「どこがですか。サブリミナルを施した映画を見せられたんですよね。本人の意思を無視させることをさせようだなんて、立派な犯罪行為じゃないですか」
富永氏は「落ち着け、茉莉」と言って、自分はグラスの中身を飲み干しました。それからトポトポとブランデーをまた満たしたのです。
それを見ていた私も、グラスの中身を一気に飲み干して、グラスを置きました。富永氏が同じようにブランデーを満たしてくれました。
「本当にそんなんじゃないと思うぞ」
もう一度そう言って……今度はグラスに口をつけずにテーブルへと置くと、頭に手をやり髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまわした。
「ある意味俺が不甲斐なかったのかもしれないけど……お節介が過ぎるだろ」
「はっ?」
意味不明なことを言い出した富永氏のことを、眉間にしわを寄せて見た。
「気づいたのが着替えに寄った店だったと言っただろう。あの時、俺の支度が早く済むのはわかっていたから、空いた時間に映画のパンフレットを見ていたんだ。茉莉は映画の内容を覚えているか」
「えっ? ええっと、大人の恋愛映画だったわよね」
そう答えたら、なぜか富永氏は不可解な顔をした。いや、だってさ、呆れた顔をしたのよ。私は端的に答えただけなのに。
そうしたら富永氏にパンフレットを渡された。見ろということなので、表紙をめくりざっと目を通す。監督の挨拶文に続き、あらすじが隣のページに書かれていて……。はっ?
「あの、これって、間違ってないですよね」
「ああ、今回のために作られた特別品じゃないぞ」
そう言うということは、私がお風呂に入っている間にでも、ネットで調べたのだろう。
「偶然?」
「偶然とはいえないだろうな」
なんで? と視線に込めたら富永氏は苦笑いをして答えてくれた。
「もらった招待券を覚えているか? あの映画館でやっているものなら、どれでも見れるようになっていただろう」
……すみません。特別招待券の仕様にビビってよく見ていませんでした。だって、いかにも高級そうな封筒に厚手の紙、金文字で『御得意様』と書かれていたじゃないですか。そうしたらあんな部屋に通されたのですもの。セレブ何者って思っちゃいました。
私の表情から察したのか、富永氏は深々と息を吐きだしたのでした。