158 サブリミナル……って犯罪じゃあ……
グラスに氷を入れてトポトポと惜しげもなくブランデーを注いだ富永氏。お互いにグラスを持つと軽く触れ合わせてから一口。う~ん、芳醇な味わいが口の中に広がっていく。
富永氏は私の満足そうな様子に表情を緩めて私のことを見ていたけど、すぐに引き締めて言った。
「さっきの続きだけど……俺が違和感に気がついたのは『ディナーを食べて帰ることにしよう』と言った時だ。あの店には持ち帰りをしたいと、昼飯を食べた後に伝えていたんだ。だから、帰りにその店に寄って受け取って帰るつもりだったのが、食べて帰ることにしただなんて、何度も変更させたんじゃ店にも迷惑だろ。それなのに、食べて帰るのが当然だと思った」
富永氏は言葉を切ると、ぐいっと煽るようにブランデーを飲んだ。
「着替えるために寄った店で、どうにもすっきりしなくてな。俺も着替えて鏡に映った自分の顔を見て、違和感が増した。違和感の正体を探ろうとしたけど、どうにもわからない。ドレスアップした茉莉と会って、俺はそこで冷水を浴びせられた気分になったんだ」
「それって、似合わなかったから……とか?」
「そんな訳ないだろ。とっても似合っていた。ちゃんと称賛の言葉を言っただろう」
確かに熱のこもった目で見つめられた……よね。
「それじゃあ、どうして?」
そう言ったら、富永氏は何故か残念なものを見るような目で見てきた。
「茉莉は……いや、これは、サブリミナルのせいだから」
小声で呟くように言った言葉を、私の耳はちゃんと拾った。
「サブリミナルって、どういうこと? えっ? 待って。それじゃあ、あの映画に仕掛けられていたってこと」
富永氏は渋面のまま、またブランデーを飲んだけど、まるで苦いものを飲み込んだみたいだ。せっかくの美味しいお酒をまずくさせるとは。
仕組んだ奴は、どこのどいつだ!
「言っとくがな、推測でしかないんだぞ。どこにも証拠なんてないんだから」
富永氏は宥めるように言った。その彼のことをキッと睨むように見た。
「でも、確証は持ったわけなのでしょう。仕掛けた奴は私たちに何をさせたかったのかも、富永さんはわかったんですよね。教えてください!」
私の剣幕に押されるように、富永氏は体を引く素振りを見せたのでした。