156 マンションに戻って……って、あれ?
「茉莉、帰ろうか」
富永氏の問いかけに軽く頷きました。支えられるように腰に回された腕に促されてタクシーに乗り、マンションへと帰ってきました。エスコートをされたままリビングへと入り……。
「茉莉、今日は疲れただろう。先に風呂に入るか?」
「……えっ?」
ネクタイを緩めながらリビングの中を歩き回る富永氏をぼんやりと見ていた私は、言われた言葉がなかなか理解できなかった。そんな私の様子を、苦笑を浮かべた顔で見た富永氏。
「それじゃあ、俺が先に入らせてもらうな」
そう言うと、リビングを出て行った。……あれ?
もう一度リビングの扉が開いたと思ったら、富永氏は。
「なんだったら一緒に入るか」
ニヤリと笑って顔をひっこめた。扉が閉まってから「……なっ! 何をー!」と叫んだ私は悪くないと思う。
しばらく茫然と扉を見ていたけど、ハッと気がついた私は自室となっている客間へと行った。イヤリングとネックレスを外してイブニングドレスも脱いで、ハンガーへとかけた。
それから部屋着に着替えて化粧も落とし、リビングへと戻ったら「待たせたな。茉莉も入ってこい」と、言いながら富永氏も戻ってきたので、私も入れ違うようにして浴室へと向かった。
体を洗いシャワーで泡を流した後、切り替えて水にして頭から浴びた。
うん。だんだん頭の中がクリアになってきた。
湯船に浸かって少し体が温まったと思ったところで、勢いよく立ち上がった。
タオルで髪の毛をガシガシ拭いてからリビングへと行ったら、案の定ドライヤーを持って富永氏が待っていた。手招きされるまま彼のそばへといき、椅子へと座った。
ブォー と、ドライヤーの風が髪に当たる。
「どうやら戻ったみたいだな」
富永氏に普通の声で言われた。
「そう言うってことは、富永さんが仕組んだことではないんですね」
振り向けないけど、眉間にしわがよった状態でとがった声で言ってやる。
「おいおい、心外だな。そんなふうに茉莉に思われていたなんて」
「違うだろうとは思いましたよ。……けど、富永さんはいつから気がついていたんですか?」
そう言って振り向いたら渋面の富永氏と目が合ったのでした。