閑話 彼女が知らない、御大と彼女のこと
前に彼女が話していたアレクという人物。フルネームは教えて貰えなかったが、アレクサンドルという名前で、御大とも親交があった方だそうだ。その人が彼女のことをよく話題に出していたという。
御大もこの前のパーティーの時まで、そのことは忘れていたそうだ。彼女が席を外して戻ってくるときに少し彼女と話をし、改めて名前を聞いて彼のことを思い出したといった。すぐに彼女のことを調べて、彼女がアレクサンドル氏が言っていた人物だと特定したそうだ。
そしてアレクサンドル氏に恩義がある御大は、亡きアレクサンドル氏の代わりに彼女のことを見守ろうと決めた。
……ところに、この話が成田さんから伝わった。ということだった。
うちの親たちはアレクサンドル氏と彼女のことは知らなかったようだ。けど、彼の会社と付き合いがあるので、二人に関係があったことにとても驚いていた。
そう。演技でもなく本当に驚いている姿を見て、俺はまた疑問が湧いた。
御大の話からてっきりうちの親たちは、アレクサンドル氏の関係で彼女を特別視していると思ったのだ。これも違うのなら、いったい彼女の何が……。
余計なことを考え始めた俺に、御大は言葉を続けた。
「克明、彼女に儂のことは話すなよ」
「どうしてでしょうか。彼女はアレク……アレクサンドル氏のことをとても慕っていたようです」
「いいから、黙っておれ。その代わり、土曜日に煩わしい者どもを一掃してやる」
そうして御大自ら考えた計画を教えられた。
金曜日には事情を知っている取引先との会食場所に現れて、彼女に土曜日に現れる邪魔者たちのことを話した。彼女は御大の言葉を疑うことなく、真剣な顔で頷いていた。
そして土曜日……十数人のお嬢様方が、御大に雷を落とされることが決まった。
連行されるお嬢様方の姿にため息しか出てこないが、気を取り直して彼女とのデートを楽しむことにした。
が、御大が気を利かせて特別室で映画鑑賞が出来るようにしてくれたことが、彼女には不満だったようだ。
彼女は普通のデートがしたいと言った。その普通というものは案外難しいのかもしれないと、特別室のソファに座って映画を観ながら思ったのだった。