150 さてさて、何が起こっているのかというと……
女性たちに注目されながら、富永氏に笑顔(引きつっていないことを祈る……)を浮かべて言い直しました。
「えーと……克明さん、おはようございます」
ダメだ―。照れが入ってしまい、顔が赤くなるのを感じます。富永氏が満足そうに笑って口を開こうとしたら、横から女性の甲高い声がしました。
「やだー、こんな地味な女はあなたにふさわしくないわ。あなたの周りには碌な女がいなかったのね。ねえ、こんな女と付き合うのはやめて、私と付き合いましょうよ」
声をあげた女性を見ると、ヒマワリのプリント柄のワンピースを着て、髪は茶髪に染め、真っ赤な口紅を塗っていました。意志の強そうな眉はきりっと揃えてありますねえ。
その言葉に不快そうに眉を寄せる富永氏。だけど女性は富永氏に見られたことで、胸を誇張するように張りました。
対する私は、今日はクリームイエローのワンピースです。日差し除けとこのあとの冷房対策のためにニットカーディガンを羽織っています。……まあ、地味と言えば地味ですね。
何も答えない富永氏の腕に、他の女性が手を掛けました。
「滝浪さん。こんな女は放っておいて、行きましょうよ」
うん。語るに落ちましたね。
富永氏は無言で女性の腕を払うと、おもむろに左腕をあげました。と、すぐにどこからか、白いシャツに黒いスラックス、サングラスをかけた男たちが現れました。その人たちは女性たちの腕を捕まえると、どこかへと連れ去っていきました。もちろん女性たちはギャーギャーと騒いでいましたけど、あとのことは知りません。
それを一瞥して、富永氏はため息を吐いてからいいました。
「じゃあ、行こうか、茉莉」
「そうですね。でも、これで終わりですかねえ」
「後のことは知らん。これ以上邪魔をする気なら、それ相応の覚悟をしてもらうしかないな」
さて、簡単に事情説明をば。
木曜日に富永氏にデートに誘われまして……浮かれました。富永氏も機嫌よく、取引先の方と話しましたよ。それで、珍しくミスをしたのですね。いや、ミスって言えるのですかね?
相手の方はあのパーティーに来ていた方でした。あのあれこれを知っているので、その後のことを知りたかったみたいです。
それで、つい土曜日に待ち合わせて映画を見に行くと言ってしまったのですよ。
それで金曜日、会食の席にパーティー主が現れましてね。彼の方が言うには。
「克明の嫁になりたい女どもがデートの邪魔をしに行くそうだ」
……でした。