148 平常心で過ごせなかった金曜日
金曜日です。
えーと、仕事をしています。
今日の予定は……本部長として取引先の方と打ち合わせを兼ねた会食が入っています。
えーと、えーと……ああ、そうでした。岸本君たちの処罰については、もう少し先になりそうです。まだ女性たちとの話し合いがつかないとか。……こちらは戸塚営業部長にお任せしていますので、決まったら教えてもらえることでしょう。
それから、昨日は富永氏の胸に顔を埋めた私の頭を、しばらくの間撫でていた富永氏。いつまでもそうしているわけにはいかないので、顔の熱が引いたところで富永氏から離れました。
そしてお手洗いへと逃げ込みましたよ。少しお化粧を直してから戻りましたけど……仕事モードでいようと思いましたけど……。
無理! そのまま一日、お互いに視線が合うとパッと逸らすを、繰り返す一日でした。
今日だって……えー、いつもの恒例の壁ドンが、ありませんでした。
……別に寂しいだなんて思っていませんからね。
そうして、いつの間にか時間が過ぎまして、ただいま二人でタクシーの中です。会食が終わり送ってもらう途中です。
先ほどから会話はありません。……というか、口を開いたらため息しか出てきそうにないのですけどね。そんなことを考えていたら、手に何かが触れました。……ではなくて、手を握られたのですね、富永氏に。
「茉莉」
呟くような富永氏の声が聞こえました。
「はい」
私も小さな声で答えました。
「明日のことは……本当にすまない」
「……まあ、仕方はないですよ、ねえ」
「だがな」
「克明さん」
私は遮るために彼の名前を呼びました。
「あなたが謝ることではないでしょう。それよりも私達はデートを楽しみましょうね」
「……わかった」
私の勢いに押されたように、富永氏は返事をして……繋ぐ手が強く握られたのでした。