142 いろいろと種明かし……かしら?
富永氏は呆れたような顔をしました。
「それなら同性なんだから、大石に相談すれば良かっただろう」
「そこはあれです。私が秘書に引き抜かれた時の話は有名ですからねえ。嫉妬していたと言っていました。容姿では私に劣るつもりはないけど、実績では勝てないとも言われました。我が社は秘書課に所属する女性は極端に少ないですよね。それもあって私が引き抜かれたことに納得いってなかったみたいです」
……富永氏、いくら口の中だけとはいえ「女の嫉妬は怖いな」と言わないでくださいよ。
そして「ん?」と何かに気がついたようで私のことを見てきました。
「その話はいつ彼女たちとしたんだ?」
「もちろん昨日です」
「昨日? えっ? ずっと部屋に居たんじゃないのか」
「そんなわけないじゃないですか。秘書室長から指示が来て、会社まで出向きましたよ。ちゃんと彼らがいない状態なのは、知っていましたから。彼女たちとランチを食べて、それだけの時間じゃ足りないから、会議室で一人ずつ面談をしましたよ」
そう答えたら、富永氏は……ショックを受けていますね。「浮かれていた俺がバカみてえ」と、呟きながら肩を落としてます。……でもそれは私だって……。
「……浮かれていたのは私も同じです。秘書室長からのメッセージを邪魔だと思いましたもの」
視線を逸らして小声で言った。……そう、昨日は仕事だとわかっていたけど、メッセージを見た時に嫌だと思ってしまったもの。恋人……というより、新婚気分のほうが正しい気がするけど、それを休みの最後の日に堪能したかったのよ。……それに、もしかしたらはじめての体験もあるかもしれないと、期待……というか、覚悟も少ししたし。そうなってもいいように準備をしようと思ったり……。
そう、浮かれた気分に完全に水を差されたのよ。
「茉莉……」
富永氏の声に彼のほうを向いて見つめ合う。同じ気持だったと伝わってくる視線に、甘く見つめ返し……。手を伸ばしかけてハタッと気がついた。こんなことをしている場合じゃない。
私はグラスを掴むと一口お茶を飲んだ。そしてわざとらしくコホンと咳ばらいもした。
「えーと、続きを話していいですか」
「あっ、ああ」
富永氏も我に返ってくれたようです。
「それでは話を戻しまして、噂のことなのですが、実は二種類の噂を流していたんです」
「二種類?」
「はい。女性用と男性用と別なものをです」
富永氏は先ほどの岸本君たちの反応を思い出したのか「ああ、あれか」と相槌を打ったのでした。