141 2課に行ってからのこと
なんか富永氏が怒っているけど、自業自得って言葉を贈りたい。……じゃなくて、本当に身の危険を感じるから、さっさと話を終わらせてしまおう。
「えー、読んでお分かりになったと思いますけど、私が富永氏のことで受けた指示は、2課の不当な関係を気づかせないことと、2課の課長としての掛け持ちが終わったら本部長として活動するのに困らないようにすることでした」
そう言ったら、一瞬きょとんとした顔をした富永氏。さっきまでの不穏な雰囲気は霧散しましたね。
「俺の見張りとしてついたんじゃないのか」
富永氏の言葉に、一瞬ハテナマークが浮かびました。あれ? 本部長秘書の任命書……は、後日受け取ったから、別にしていたかな。
富永氏に渡した指示書を返してもらい、確認したけど入っていなかった。なので自分のデスクに行き、先ほどのパンフレットを入れていたところとは別の引き出しを開けてみた。……ありました。それを手に持ち富永氏のデスクへと戻った。
「すみません。あとから正式な任命書を受け取ったので、別にしていたのを忘れていました」
受け取って内容を一瞥した富永氏は無表情で頷きました。……先ほどのあれはなんだったのでしょう。憑き物が落ちたような感じの変化なんですけど?
えー、視線で促されたので2課に行ってからの経緯を話します。
「2課に移動するときに、女子社員の反応を見るために噂を流しました。それは『新しくきた2課の課長は出世コースを約束されたエリートである。独身で彼女もいないから、ねらい目だ』と」
そう言ったら胡乱な視線を投げかけられました。失礼なー。私じゃないですよ。
「言っておきますけど、私が考えた訳ではないですよ。秘書室長か凛香さんが考えた謳い文句ですからね。だから、3か月しか居ないのに歓迎会が開かれて、関係ない部署からの参加者が多かったんですよ」
ハア~とため息を吐き出した富永氏は「だからだったのか」と呟きました。
「彼女たちは私が居ない状態で歓迎会を開こうとしたので、てっきり噂に踊らされたと思ったのですけどねえ」
と、私もため息を吐き出しました。
「違ったのか」
「ええ。本人たちから聞いた話は、富永さんに相談を掛けたかったようでした。そのためにも専任事務としての私が邪魔だったそうです」
「相談って、岸本たちのことをか?」
「はい。でも、他の課の女性たちも来てしまったし、私が参加しなければ歓迎会に行かないと富永氏が言ったので、誰かが誘い出して二人きりで相談をすることは無理だとあきらめたみたいです」