137 連絡がつくまでの間に……
「ええ。普通はそうですが、彼女が嫁いだ先が外国、それもアフリカの国で、その国の中でも移動手段に困るようなところなのだそうです」
富永氏は目を見開いた。……私だって、最初に聞いた時には信じられなかったから、気持ちはよくわかります。
「友人の女性が手紙を送ったら、返事をもらうのにふた月かかったと言われて、秘書室長は尚更頭を抱えていました。でも、その間に私達も何もしなかったわけではないのです。元人事課の女性の言葉ということで、もしや人事に関わっているのかと調査が始まりましたから」
私は一息つくためにお茶を一くち口に含んだ。
「最初はおかしいところは見つかりませんでした。その中で2課に引き抜かれて入った人が、目についたくらいでした。これは去年移動になった奥志田課長が、引き抜きを行っていたのです。でも、他の課のトップを引き抜いていたわけではないので、問題にはなっていませんでした。それよりも2課に移った彼らが成績を伸ばしていることで、奥志田課長の指導力を再評価することになりましたね」
「奥志田さんか。噂でしか知らないが、今の2課があるのは彼のおかげだと聞いているよ」
富永氏の言葉に、私の口元には苦笑が浮かんだ。
「そうですね。たしかに人育ては上手い方のようでしたね」
含みがある言い方に富永氏の眉が寄った。
「引き抜いた方たちに背後にあるものを使って営業をさせることを、厭わないように上手く誘導なさっていたそうですからね」
富永氏の眉間のしわが深くなった。
「でもそれは悪いことではないですよね」
そう続けたら富永氏は意外だったのか、瞬きをして私のことを見つめてきた。
「一応擁護ではないのですけど、奥志田さんは様々なことを調べてから、営業をさせていました。以前取引があったけど現在はないところで、彼らの父親が営業をしていたということを。取引をやめることになった経緯まで調べてから、彼らを連れて営業に回っていたようです。引き合わせて数回は彼らについていたようですが、そのあとは彼らに任せていました。再び契約をもらえるようになったのは、彼らの努力のたまものだと思います」
そう、これだけならよかったんだよねえ。……と、ため息を吐き出してしまった。もう一度お茶を一口飲んで、続きを話す。
「奥志田さんは余計な知恵を彼らに与えたんですよ。それが、気になる女性を自分の背後にあるものを使って、強引に2課に移動させるというものでした」