136 経緯は順を……追って話していきます
富永氏はなんとも微妙な表情を浮かべた。『凛香さんの一声』で、何があったのかを想像できたからだろう。「あの人は強引だからな」と呟いていますしね。
「では、そこを踏まえて話を聞いてくださいね」
富永氏が頷くのを見てから、私はグラスを持ってお茶を一口飲んだ。
「それで友人が教えてくれた噂というのは『不正が行われている』というものでした。私は立場上黙っているわけにはいかないので、すぐに秘書室長に報告しました。不正という言葉から一番に浮かぶのは、先ほどの2課の皆さんの反応の通り、『横領』などのお金に関わることですよね。秘書室長から聞いた社長もそう判断して、徹底的に調べることになりました。ただ秘密裏にすすめる為に、それぞれの部署の監査部に所属している人が苦労したみたいです。私には『その噂』の出所を調査するように言われました」
一度言葉を切って、深呼吸をした。
「調べた結果、小さな不正を発見することは出来たけど、噂になるような大きな不正は発見できませんでした」
「その小さな不正というのは?」
思わずというように富永氏が聞いてきた。……けど、すぐにしまったという顔をした。さっき話の腰を折るなと言ったのを思い出したのだろう。私は口元に笑みを浮かべて答えた。
「本社ではなくて支社のほうでしたが、請求書を水増しさせて差額を着服していた人が居たそうです」
「ああ」と頷いて納得した様子の富永氏。なので、私は続きの話を続けた。
「社長が首を捻る中、噂の出元を突き止めたのでその方に話を聞くことになったのですが、それが思った以上に大変でした」
「大変って、話を聞くだけだろう。それの何が……って、まさか」
怪訝そうな顔をして富永氏は言いかけて、ある可能性に思い至ったようね。でも、それは違うことだと思う。続きを話していれば判明することなので、ここはスルーしておくことにした。
「噂の元を置いていったのは、人事課にいた女性でした。彼女は仕事を辞める時に結婚して、彼について行くと言っていたそうです」
この言葉に明らかにホッとした様子を見せる富永氏。事故か病気かで、話もできない状態になったとでも想像したのかしら。
「話を広めた彼女の同期の女性に、連絡先を聞いたのですが、簡単に連絡が取れないところだとわかったのです。秘書室長は頭を抱えてしまいましたよ」
「どうしてだ? 電話でも手紙でも連絡のしようはあるだろう」
富永氏が腑に落ちないという顔で言いました。