135 経緯は順を追って……の前にもう一つ
ぎょっとしたように私のことを見る富永氏。
「それは……大石は誰が監査部に所属しているのを知っているのか」
「私は知りません。知っているのは人事課長と社長、あとは凛香さんと秘書室長くらいじゃないですか。表向きは皆さん、どこかの課に所属していることになっていますから。普段は査定が出たところで、評価があっているかの確認をするだけなのですけどね」
「それじゃあ大石が査定をしていたのは、社長や上役、秘書たちなのか」
おっと、そういうことを言われるとは思いませんでしたね。
「そんなわけないじゃないですか。私は外部から各所の補佐をしていたんです」
「外部からの補佐とは?」
「簡単に言えば噂を集めて、その信憑性を計る……ですかね」
私の言葉に「う~ん」と呻って考え込む富永氏。少しして視線を私へと向けてきた。これは話を進めろということなのでしょう。
では、ご期待通りに話をしましょうね。
「それでは、始まりは……もう5年前になるかしら。総務の友人の先輩である女性から、『ある噂』を聞いたと言われたのです」
「……いきなり説明を始めるなよ」
「どうしてですか。監査部のことについてはこれ以上話すことはありませんけど」
怪訝な顔をして言ったら、富永氏はため息を吐き出した。
「分かった。それじゃあ、話してくれ」
「はい。……あっ!」
続きを話そうとして監査部に誘われた時のことを、先に話しておいた方がいいかもしれないと気がついた。つい、あっと声をあげてしまって少し逡巡する。
「どうかしたのか」
「あー、と、いえ、その、少し余談になるのですけど、この後の話に関わってくるので、私が監査部に誘われたことの話をしていいですか」
富永氏は怪訝そうな顔をして頷いた。
「私が監査部に誘われたのは入社した年の7月でした。総務課長から人事部に使いに出された時に、人事課長から直々にお声がかかりました。ですが、その後私に身内の不幸が起こり、この話は立ち消えになったんですよ。でも、人事課長は諦める気がなくて、年が変わったあたりから、また勧誘されるようになりました。そんな時にインフルエンザで経理課の手伝いに行って、そこで年度替わりで寿退社される方がいるから、その人の後釜にと誘われ、人事課長と総務課長から経理の監査役となってくれと頼まれました。それが通訳もどきをしたせいで秘書課に移動という話が出て、総務課長と秘書室長とがもめることになりまして、凛香さんの一声で収まったのです」