133 不機嫌全開……
本部長室に向かうためにエレベーターに乗り込んだのは、富永氏と私だけでした。
富永氏は……先ほどから一言も口をきかないだけでなく、エレベーターに乗り込んだら腕を組んで、私のことを見てきます。
私は……開閉ボタンの前にいるので、富永氏は自然後ろにいるわけです。だから富永氏の表情なんてわかるわけはないのに……怒っていることが、とてもよくわかります。
威圧……というんですかね。後ろから、見えない圧力をすごーく感じるんですよ。
一度どこかの階でエレベーターは止まったのですが、待っていた人は乗り込まずに『どうぞ行ってください』と、手ぶりで伝えてきたくらいです。それだけ凶悪な表情をしていることでしょう。
えっ? そんな状態なのに、後ろにいる富永氏が腕を組んでいるのがよく分かったな、ですか。
えーとですね、鏡はないのですけど、階数のボタンの横の銀色の部分がピカピカで、かなり細いけど、後ろにいる人がどういった体勢なのかくらいはわかります。だから、富永氏が腕を動かして組んだのが見えたというわけです。
拷問のような無言地獄のエレベーターを出て本部長室に入りましたけど、部屋には私と富永氏の二人しかいません。富永氏はデスクに行くと「椅子を持ってきて座れ」と言いました。
私はおとなしく自分の椅子を移動させてから、富永氏に聞きました。
「何か飲みますか?」
「そんな気分じゃない」
「そうですか。では私の分だけ用意させていただきます」
部屋に備え付けのミニ冷蔵庫から、今朝入れておいたお茶のペットボトルを取り出した。そして自分の分だけグラスに入れて、それをもってデスクに戻ったら「おい」と言われました。
「欲しいんですか」
「ここで自分だけって、性格が出ているぞ」
いや、あなたがいらないと言ったのでしょう。……と反論したいけど、ムスッとした表情の富永氏と向き合わなきゃならない私は、少しでも富永氏の気分を緩和させるように、グラスにお茶を入れて持っていった。富永氏の前にグラスを置くついでに、ペットボトルもデスクに置く。ジロッと見られたけど、どうせ話の途中で足りなくなるのは目に見えているから、無視をした。
「それで、何がどうしてどうなったら、ああいうことになるんだ」
ストレートに聞いてきたけど、言外に先に知らせなかったことを責めるように睨まれた。
「先に言っておきますけど、富永さんに知らせなかったのは、あなたが悪いんですからね」