130 無理矢理か、そうではないのか……は
思わず「ケッ」と、吐き捨てるようにつけてしまった。いかんなー。昨日の彼女たちの話から、彼らに対して、悪感情を持ってしまっているようだ。
岸本君たち五人は呆けた顔で私のことを見てきた。……ん? 何よ、その顔。まさか、自分たちが彼女たちに肝心な告白をしていないとは思ってなかったの?
その事に気がついて、五人を問いただそうと口を開こうとしたら、先に富永氏の声が聞こえてきた。
「ということは、恋人でもない相手に、無理矢理迫って関係を結んだというのか」
低められた声と殺意を含んでいるんじゃないかというくらいの険悪な視線を向ける富永氏。
「富永さん、そこについては一応和姦みたいですから、大丈夫です」
「和姦って……無理矢理は否定しないんだな」
「無理矢理……というか、彼女たちも嫌ってないから応じたわけですよ。ただね、問題なのが、雰囲気で察しろタイプのお坊ちゃまたちなので、肝心な言葉を何にも言っていないらしいんですね。やはり女としては察していても、実際はどうなんだろうと思うわけじゃないですか。何も言ってくれないのなら、他を探そうとしたって仕方がないですよね」
私の言葉に何故か富永氏は眉間に指を持っていって、揉むような仕草をした。
「つまり、あれか。岸本たちは親の地位をちらつかせて、彼女たちを2課に移動させた。だが、自分たちからは積極的なアピールはなしで、好意は感じるけど何も言ってこないからと他の相手を探そうとした彼女たちの邪魔をしていた、と」
「まあ、要約するとそうなりますね」
「そんなことは仕事が終わってからしろよな!」
甚だ同意します!
富永氏は不正という言葉からかなり身構えていたのが、実際の罪状に力が抜けたようだ。
でも、不当に彼女たちを移動させるようにしたのは、立派な不正行為よね。
「だけど大石、岸本は違うだろう」
「いえ、違いません。岸本さんはヨーロッパ統括部長の息子さんです」
「岸本が、町田統括部長の」
「はい。岸本さんが小学生の時に両親は離婚されています」
私は部屋の中を見回した。女性たちは顔を赤らめて俯いている。後ろ側の東田さんたち五人は、岸本君たちを見ていた。岸本君たちは視線を避けるように、顔を逸らしていた。
「それでは、お待たせいたしました。後のことはお任せいたしますので、ご子息方のことをよろしくお願いしますね」
と、私は扉のほうに声をかけてファイルを手に持ったのでした。