128 私に指示を出した人は……
岸本君たちは一瞬たじろいだけど、私から視線を逸らそうとはしなかった。それどころか、睨むように私のことを見てきた。
……いや、睨むようにではなくて、本当に睨んでいるのだろうなー、これは。
「その前にちょっといいかな」
岸本君が気持ちを立て直したのか、いつもの飄々とした感じに口を開いた。私は「なんでしょうか」と、口元に軽く笑みを浮かべて返事をした。
「なんで大石さんが摘発をするのかな、と思ってね。大石さんは富永課長……いや、富永本部長の秘書でしょう。俺たちを裁く権利はないんじゃないかと思ってさ」
そう来たかと心の中で思ったけど、そんなことはおくびにも出さずに、私は殊更ニッコリと最大限の笑顔を浮かべてから言った。
「もちろん今回の件を、一任されているからですよ」
そして指を見えるように折りながら私に指示を出した人の名前を挙げていく。
「人事課長、秘書室長、監査部長、常務、専務。それから各支社長に、副社長、社長からですね。こちらがその指示書です」
手元に用意しておいたファイルから、最初に渡された資料に挟まれていた指示書を取り出して、皆に見えるように掲げて見せた。私に一番近い席に座る岸本君が、指示書の署名欄を見て顔色を蒼褪めさせる。
それを見て、一瞬部屋の空気が揺れた。後ろにいる五人と、向かいに座っている女性たち、岸本君以外の四人も、私が言った通りなのだと悟り、それぞれが顔色を変えていった。
「ということですので、この後文句を言うのであれば、社長にお願いしますね」
私は口元はニッコリと、でも、笑っていない目で五人のことを見つめたのでした。