閑話 家に帰るのが楽しみだ
マンションを出て待っていたタクシーに乗り込んだ。まだ俺付きの運転手はいないから、会社まで行くのにタクシーを使っている。本当は自分の車で行きたかったが、急に会食などが入ることがある。もちろん酒つきがほとんどだ。会社に車を置いていくことになるよりは、タクシーを使った方がいいと契約をしているのだ。
タクシーに乗って、顔が緩みそうになるのを堪えていたが「何かいいことがありましたか」と、運転手に言われてしまった。そんなに顔に出ていたのだろうか?
会社に着いてまずはいつものように本部長室へ。小暮とスケジュールの確認を済ますと、営業2課へ。昨日と同じに、女性たちに元気がないように感じられた。
仕事が始まってしばらく経つと、取引先から電話が入った。気がつくと営業はいなくなっていて、岸本まで取引先に出かけて行った。そこに俺にも本部長としての仕事のことで連絡が来て、上に行かなくてはいけなくなった。
事務の女性たちに会議が入ったと言って、2課を後にした。
昼休みをまたいで社長と重役たちとの話し合いは続いた。呼び出されたのは創立50周年パーティーのこと。招待客が増えることになるらしく、いろいろな変更をしなければいけなくなった。会場は……何とか変更しないで済みそうだ。だが、他の細々したものの変更が多いのだ。手配済みのものと見比べて取り消すもの、増やすもの、差し替えるものなどを決めていく。
それから一番大事な参加者への記念品。今から増やすことが出来るのか問い合わせて、パーティーの日ぎりぎりで間に合いそうだと、返事をもらえてホッとした。
ここまで大人数の変更はもっと早く教えてくれと思ったけど、やっと先方から色よい返事をもらえて、これから共同で制作することになるのだとか。……確かに俺は役員としてはペーペーだけど、そんなプロジェクトが進行していたことを知らされないというのはどういうことなのだろうか。そんなことは言えないから、冷たい視線を送っておいたけど……。
あと少しというところで携帯が震えた。取り出してみるとメッセージが来ているようだ。開いてみて、彼女からだとわかり慌てて読んだ。なんということだ。昼頃にもメッセージが届いていたのに、気がついていなかった。
先のメッセージは『何か夕食に食べたいものはありますか?』で、今のメッセージは『あまり食材が残るのもあれなので、適当に作りますね』とあった。
ジーンと感動をしてしまった。家で待ってくれている人がいるのだと、実感した。
俺は残りの仕事を急いで片づけることにしたのだった。




