表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/216

閑話 回復したら……

 ゆっくりと瞬きを三回してから、彼女は口を開いた。


「すみません。また……ご迷惑をおかけした」

「迷惑なんかじゃない。それよりも大丈夫か。気持ち悪いとか、どこか痛いところとかあるか」


 彼女の言葉を遮るように言ったら、彼女はゆっくりと腕を持ちあげて、額へと手を当てた。


「大丈夫です。立ち眩みを起こしただけですから」


 先ほどよりはしっかりとした声でいう彼女。どうやら立ち眩み……というよりも貧血を起こしたのだろう。原因がわかってほっとしたが、本当にそれだけかとも、思ってしまう。


「もう少し休んでから病院に行こう」

「大袈裟です。病院に行く、必要はないですよ」

「だがな」

「それより」


 言いかけた言葉を強い声で遮られた。額に当てていた手を離した彼女が、俺のことを見つめてきた。


「お水が飲みたいです。……持ってきていただけませんか?」


 少し甘えるようにいう彼女に、「すぐ持ってくる」と言って立ち上がったのは、……まあ、その、あれだ。甘えられて嬉しいとかじゃないぞ。


 持ってきた水を、体を起こした彼女を支えながら飲ませた。一息ついた彼女は、部屋を見まわして自分の格好を見てから俺のことを見つめてきた。


「どうしてここに」

「一人にしておけないだろう」


 俺の言葉を少し考えるようにしていた彼女は、何かに気がついたかのように俺のことを不安そうに見てきた。……失礼だな。体調が悪い奴を襲うような節操無しじゃないぞ。


「これ以上の迷惑をかけるわけにはいきません」


 と、ベッドから降りようとする彼女を、肩を押さえて止めた。


「迷惑じゃないと言っただろう!」


 まだそんなことをいうのかと、苛立ちと共にベッドへと押し倒す。いっそ動けないようにしてやろうかと、悪い考えが浮かんできた。睨むように彼女のことを見下ろして……彼女の眼に涙が浮かんできたことに気がついた。


「だって……明日も仕事があるのに……富永さんが眠れないじゃないですか」


 ……絶句した。彼女は俺に襲われる可能性を考えたのではなくて、俺が彼女の看病をして眠れなくなることを気にしていたとは。


 真面目な彼女らしいと思いながら、そっと親指の腹で彼女の涙を払った。


「もう、いいから、余計なことを考えずに眠れ。元気になったらちゃんとお礼をもらうから」


 そう言ったら、彼女の顔が引きつった。


「一晩じっくり付き合ってもらうからな」

「一晩! 初心者にはハードルが高すぎます!」


 ……予想はしていたけど、彼女は一度も経験はないようだ。口元に笑みが浮かんでくるのを押さえられない。


「それならじっくりと、手取り足取り腰取りで教えてやるよ」


 その言葉に彼女は遠い目をしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「それならじっくりと、手取り足取り腰取りで教えてやるよ」 ぎゃあぁぁあー! リア充が! リア充がおるぅーーー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ