14 これは……床ドン ですか?-床ドン&壁ドン&顎クイー
すぐにハッとして私は両手を床につけて、体を起こした。……けど、いつも見上げている顔がすぐ近く、それも見下ろす位置にある事に、何故か動揺して動けなくなってしまった。
えーと……何をどうすればいいんだっけ?
「おい」
「……」
「おい、大石」
一瞬意識が飛んだみたいで、富永氏に声を掛けられたのがわからなかった。
「はえっ?」
「頼むからどいてくれ」
言われてハッとする。慌てて手を床から離して上体を起こした。私が動くのに合わせるように、富永氏も上体を起こす。反動で目にかかった髪をかきあげる仕草に、またもやドキリと心臓が音をたてた。
「はあ~。どうせ床ドンになるのなら、組み敷く方がいいんだがな」
「床ドン?」
富永氏の言葉が聞きなれなくて、疑問が口から洩れた。富永氏は私を見て瞬きをした後、「なんだ、知らないのか」といって、私のことを床へと押し倒した。富永氏の両手が私の顔の横にある。……さっき私が富永氏にした体勢よね。
「これが床ドン。……もしかして、壁ドンや顎クイにも気がついてなかったのか」
「壁ドン? 顎クイ?」
首を傾げたら、体を起こした富永氏に手を引かれて、立ち上がる。そのまま部屋の中の壁があるところまで連れていかれた。富永氏のほうを向いて立たされ、富永氏の左腕がドン……という音はしなかったけど、そういう勢いで顔の横に置かれた。右手が顎に伸びてきて、クイッと上を向かされる。
「ああ~。これが壁ドンと顎クイなんですね」
両手を打ち鳴らしてそう言ったら、何故か脱力したように、富永氏はしゃがみ込んでしまった。




