118 お風呂は要注意……
富永氏の言うことはもっともです。多分ここを出てタクシーに乗ったら、アパートに着くまでに眠ってしまうことでしょう。お言葉に甘えて泊まることにします。
私用の部屋と化してしまった客間に行って、着替えを取り出そうとして愕然としました。
……また、服が増えていました。それも室内でゆったりできるような部屋着が何着か。下着も増えています。
私の脳裏に嬉々として服を物色している春菜さんの姿が浮かんできました。ついでに凛香さんや、前に会ったご婦人方までが「これがよくないかしら」「いいえ、こちらのほうが茉莉さんに似合うわ」などと会話しているところまで、思い浮かんできましたよ。
それを頭を振って追い払うと、下着とパジャマを選んで……。あれ? この前に着たパジャマがない? ……ああ、違う。あれは洗濯するために持ち帰ってしまったんだ。毎回、使用した服(下着を含む)は、アパートに持ち帰って洗濯をしていた。だから、ここには着用済みの服はほぼない。
一度リビングに顔を出して、富永氏にお風呂に入ることを告げて、洗面所に入った。服を脱いで浴室へ行き、そこに並んでいるものに、苦笑が浮かんだ。この前にはなかったけど、女性向けのシャンプーやコンディショナーが置いてあったから。
どうやらこれも春菜さんが用意してくれたようだ。前に滝浪家に泊まった時に、春菜さんが「使ってね」と言ってくれたそれらの、香りと使用後の髪の艶などの違いに、どこのメーカーのものか聞いたことがあった。教えてもらってそれから私も愛用しているもの。
そのことに春菜さんは気がついて「プレゼントしたのに」と、可愛く拗ねていたわね。それをここに置いてくれたということは、もしかして私のことを気に入ってくれているのだろうかと、今更ながらに気がついた。苦笑が浮かんできた。
髪を洗い、次いで体を洗った。体を洗うタオルも、春菜さんがお勧めしてくれたものが置いてあり、口元に笑みが浮かんだ。このタオルは泡立ちがよく、クリームのような泡が出来る。それを体につけるようにしていて、気がついたら白い泡に全身(頭以外)が包まれていた。
調子に乗り過ぎたと立ち上がり、泡を流そうとシャワーを手に取ろうとした私は、急速に暗くなる視界に声が漏れた。
「あっ」
立ち眩みだと思い壁に手をついて体を支えようとしたのに、泡で手が滑ってバランスを崩し……私は意識を手放したのでした。