117 話が終わったので帰り……たいのですけど
優しい口づけを何度かした後、富永氏は私をもたれかかせるように抱きしめてきた。気持ちが満たされたからか、ふっと眠気が襲ってきた。
どうやらこの一週間の睡眠不足が限界にきているようだと感じて、私はそっと富永氏から離れるように体を起こした。富永氏は甘いものを含ませた視線を向けてきている。
私は床に置いておいたバッグを手に持つと椅子から立ち上がった。
「それでは、これでお暇させていただきます。本日はありがとうございました」
そう言って軽く頭を下げてそそくさとリビングから出て行こうとした。……が、そうは問屋が卸さないですよね。一瞬呆けた富永氏に、すぐに腕を掴まれましたもの。
「茉莉、お暇って、アパートに帰るつもりなのか」
「えーと、……はい。明日も仕事ですし、あまり遅くなるのはよくないですよね」
にっこりと笑いながら掴まれている腕から、手を外そうとした。けど、逆にその手も掴まえられてしまった。
「帰ることはないだろう。ここに泊まればいい」
「いや、私も帰って、仕事の支度とかありますし……」
「茉莉は明日まで休みだろう。ゆっくり休めばいい」
「えっと、富永氏の邪魔になるのは……」
ごにょごにょと言い訳になるようなならないことを言っていたら、いつの間にか腰に回っていた腕に力が入り、富永氏に引き寄せられてしまった。
「邪魔だと言ったことがあったか、俺が。それよりも、今から一人で帰す方が心配だ」
顔に当てられた手が、目の下をなぞる。隈がひどい自覚があるから、富永氏の言い分も納得してしまう。……というか、私がここに泊まるから時間を気にしていなかったのだろうか。
それに……まさか前回途中で止めたことを、今日するとか?
……どうしよう。そんなことは考えてなかった。前回は流されるままにという感じだったけど、さすがにお付き合いしますと言った今日に、そういうことをするとは考えていなかったのよ。
動揺した私に、富永氏は困ったように笑うと言ったのよ。
「茉莉が何を考えたか想像はつくけどな、俺を見損なうなよ。純粋に心配なだけだから。それよりもそろそろ起きているのも限界じゃないのか。もう寝た方がいいだろう」