116 めんどくさい……二人かもしれない
それでと言われて、何のことかわからずに私は軽く首を傾げた。そんな私の両手を富永氏が包み込むように掴んできた。思わず隣にいる富永氏のことを見上げるように見つめた。
「前向きにというのはわかった。それよりも茉莉は俺とのことをどうする気だ!」
そう言われて首を捻ってしまった。……えーと、言わなかったかしら?
……あっ、言ってないや。休みの間に起こったことと、莉花……妹の作文を見つけたことで、決めたことしか言ってなかった。
気まずさとこれから面と向かって言わないとならない気恥ずかしさから、視線をそっと逸らしたら、顎に手がかかり富永氏のほうを向かされた。
「俺とは付き合えないと言うつもりか」
真っ直ぐに見つめられて視線が逸らせなくなる。
「前向きになったから視野を広めて他のやつを探すつもりなのか」
……呆れた視線を向けたら、ムッとした表情をされてしまった。私は小さく苦笑をすると右手を挙げて富永氏の頬に触れた。
「そんなつもりはないですよ。休む前に言ったことを忘れてしまいましたか? 私は富永さんのことが好きです」
私が頬に添えた手を掴むと富永氏は言った。
「あの時は確信してなかったじゃないか。『好きだと思う』と言われたぞ」
「そうでしたね。でも、離れたくないと思うくらいに『好き』になっていました」
そう言ったら富永氏は、なぜか口をパクパクとさせてから、ガクリと項垂れてしまいました。
「……それを先に言っておいてくれ。それなら攻め方を変えたのに……」
ぶつぶつと小声で文句を言われてしまいました。そういわれても……。
それよりもあの時は攻められたら逃げていたと思うのだけどね。
「わたし、めんどくさい女ですよ」
「俺のほうがめんどくさいと思うぞ」
考え直すなら今の内だと、言外に込めて言ったのに間髪入れずに返されてしまった。見つめあっているうちに、どちらからともなく口元に笑みが浮かび、笑いあってしまった。
「こんな女ですけど、お付き合いをよろしくお願いします」
「ああ。愛しているよ、茉莉」
笑顔で言ったら、甘い声で返されて。近づいてくる富永氏に私は目を閉じたのでした。