114 もう一つの目的
しばらく撫でられる心地よさに目を閉じていたら、「それで」という富永氏の声が聞こえてきた。目を開けて富永氏のことを見て……首を傾げた。
えーと、何の話をしていたかしら?
「茉莉はじっ……地元に戻るつもりはないのか」
「えーと、はい。戻る必要もないので」
瞬間的に意識が飛んだみたい。気が緩んだことで睡眠不足な体が、休息を欲したのだろう。
あと少し話したいことがあったと思い、私は視線を富永氏へと向けた。目が合ったらドキリと心臓が大きく鳴り、慌てて誤魔化すように足元に置いていたバッグを手にもった。
「えーと、あと今回実家に戻ったもう一つの理由なのですけど、中学の時の同級生から、卒業文集を持っていないかと聞かれていたのですよ。えー、とですね、中3の時の担任が国語の教師だったこともあって、うちのクラスは卒業文集を作成していたのですね。それで、同級生の中に有名人になった人がいるそうで、その文集をネタにしたいと言ってきたそうなのです。なんかみんなは卒業文集を黒歴史とか言って、破棄してしまった人が多いらしくて、私にまで話が回ってきました。こっちには持ってきていなかったから、実家にあると思い探すことになったのです。それは見つかりました。……それで、そのおかげでもう一つ見つけたものがありまして……」
私はバッグの中から、青い紙の表紙の手作り文集を取り出した。それのページをめくりながら言葉を続けた。
「これは莉花……妹が5年生の時の文集です。えーと、妹が事故で亡くなった後……学年が終わる時にクラスで作った文集だそうでした。担任の先生が、妹の作文も入れてくれていました。……それをうちにも届けてくれたそうなのです」
これを見つけてすぐに、祖母に確かめたのよ。担任とクラスメイトが全員で来てくれて、仏壇に手を合わせてくれたと言った。妹のことを「いつまでも友達だよ」と言ってくれた子や、「次に会えたら、また友達になってね」と言ってくれた子がいたと、目を細めて話してくれた。
「私はそんなことも知らなかった。……いえ、知ろうとしなかったのです。それに妹がどう思っていたのかも。ここに妹の、私への思いが書いてありました」
富永氏へと、文集を渡した。そこには小学5年生してはきれいな字で、『私の夢』とタイトルが書かれていたのでした。