110 ゲイ疑惑は真実から目を逸らさせるためだった……
「はっ?」
富永氏は目を丸くして呟いた。でも、ごめん。ここも、スルーして教えてもらったことについて話すからさ。
「そういう風に周りから見えるように宮君がしていたのは、ひとえにくにっちの身の安全を図るためだったのです。くにっちこと国松君って、実はあるお方の隠し子で、大学在学中は後継者の一人と目されて、本当に危ない状態だったそうなの。最初はくにっちも宮君とゲイの噂を流して、父親の一族の後継者争いから外れようと考えたみたいだけど、鈴音と出会っちゃったからね。くにっちは鈴音に危害を加えられそうになってキレて、父親の会社と、特にくにっち排除に動いていた人たちを、まずは経済的に苦しい立場に追い込んだそうなんです。宮君もあいつは怒らせるなよというくらい、様々な方面に手をまわしたみたいでした。まあ、そんなこんなでくにっちは後継者から無事に外れて、もったいないけど趣味の延長の自動車教習所に就職することができたそうです」
少し遠い目をして富松氏から視線を外したのを戻したら、なぜか頭痛を堪えるような表情をしていたの。私は首をかしげながら言った。
「えーと、具合が悪くなりましたか?」
「違う。なんだ、それは。……いや、これ以上下手に知って、余計なことに首は突っこみたくないな。……だが、これだけはいいか。その宮下、だったか。なんなんだ、そいつは。そいつの家はそういう生業を家業にでもしているのか」
富永氏の推察に私の口元に笑みが浮かぶ。
「当たりです。もともとは由緒正しい裏家業の本家本元だそうです」
「その言葉はおかしいよな。なんで裏家業で由緒正しいだの、本家本元なんて言葉がつくんだよ」
「宮君いわく、千年以上続く家系で、隠密的なものは彼の家系から派生した流派らしいですよ」
まだ、よくわかっていないようなので、捕捉でもう一言。
「えーと、確か古武術の流派の一つだって言っていました。基本は相手の力を使って技を返すらしいんです。そこの宗家の跡継ぎで、要人警護のエキスパートだそうですよ」
「そんな奴が普通に会社員をしているなんてな」
富永氏がはため息交じりに言ったのよ。
「そんなわけないじゃないですか。もちろん、宮君は別の意味で仕事をしていますよ」
富永氏は驚きに目を見開いた。
「あと、鈴音に私のことを話していたのは、彼の婚約者が12歳下だそうで、私が妹を亡くしたと聞いて思うところがあったからだったそうでした」