13 気にされないのも……
私の様子を呆れたように見つめる富永氏は「まあ、いいけど」といって立ち上がった。そのままリビングを出て行ってしまった。
後ろ姿を見送って、私は目の前に並べた化粧品を使って化粧を落とすのと、肌のケアをした。目の前の移動可能な鏡を覗き込みながら、いろいろ考察してみる。
富永氏は室長から渡された資料によると、カリフォルニアの支社から戻ってきたはずだ。なのに、この部屋の物は使い慣れたものを置いている感じだ。
もしかして海外にいる間も、この部屋をキープしていたのか。これだからブルジョアは~。
「ブルジョアがなんだって」
あら、声に出していたのね。……じゃなくて、もう出てきたのか。私は使った化粧品を片付けて、これから着替えるというのに。
「というか、なんでそんな恰好なんですか」
「普通だろ」
「いや、バスローブじゃなくて、服を来てよ。パジャマでいいから」
「下はちゃんと穿いてるだろ。いつもは何も身に着けないんだぞ」
「裸族かよ。そんなカミングアウトはいらないから!」
タオルを頭に被って拭きながら……って、それならもう少し向こうにいてよね。
「というか、なんでまだ着替えてないんだ」
「お化粧を先に落としていたんです。お肌のケアは大切だし」
「ん? そうか。あまり変わらないんだな、お前って」
私の顔を見てそう言った富永氏は……お風呂上りだからか、そこはかとなく色気を感じるんだけど。切れ長の目を横目に見られると……流し目が色っぽくて……。
じゃない。あんたも、素でそんなことを言わないでよね。
「百戦錬磨かよ」
「なんだ、百戦錬磨って」
思わず呟いたら、逆に問われてしまった。
「別に。何でもないです」
私は勢いをつけて立ち上がった。歩きだそうとしたら、「おい」と、手首を掴まれた。
「あっ」
バランスを崩した私を庇ってくれようとしたのか、富永氏に抱きとめられるように、床に倒れたのでした。