104 懐柔します
なんとなく富永氏の考えていることがわかるなー。
一週間ぶりに会えて嬉しかったけど、私の睡眠不足な様子に心配をして、過剰に反応しただけなのでしょう。それなのに私に咎められたとでも思ったのでしょうね。
私だって……嬉しかったし、会いたかったのよ。顔を見て抱きつきたいと思ったし……。言わないけどね。
こんな自分の変化に戸惑うけど……素直に行動に移したい気になったけど……。でも、頭の片隅にいる冷静な自分が待ったをかけた。けじめをつけないと次にいけない。
めんどくさい性格をしていると思うけど、これが私だもの。意地でも、貫かせてもらうわ!
と、決意を新たにしたけど、このままじゃ富永氏は折れてくれないだろう。だから、まずはこれで懐柔しましょうか。
「ところでですね、富永さんは夕飯を食べましたか」
「……食べてない」
チロっと私のことを見てからふいっと顔を背けて、ぶっきらぼうに答える富永氏。
「それなら夕食にしましょう。富永さんは先に着替えてきてくださいね」
私の言葉に驚いた顔をして、瞬きを繰り返した。
「もしかして、作ってくれていた?」
「まあ、自分が食べたかったからですけどね」
「……待っていてくれた、と?」
「一人で食べたって、おいしくないじゃないですか」
私の様子を窺うように見た富永氏は「着替えてくる」と言って、少し機嫌を直してリビングを出て行ったのでした。
私はキッチンへと戻り、用意していた料理をもう一度温めたり、冷蔵庫から出したりした。冷やし焼きナスに冬瓜のひき肉あんかけ。漬物、エノキのお味噌汁。メインはアジのたたき。炊き立てご飯をよそってテーブルに置いたところで、富永氏がリビングに戻ってきた。
けど、なぜか入り口で立ち止まり、私のことを凝視している。どうしたのだろうと首を傾げたら「手を洗ってくる」と言って、また出て行こうとした。
「新婚みてぇ」
富永氏の呟きが聞こえてきて、私の頬に熱が集まってきた。……意図したわけじゃ……ううん、意図しましたとも。今日の私はエプロンを持ってきて、つけているのよ。
いいじゃない! 私だって、新婚気分を味わいたかったんだから!