103 嬉しい再会? のはずが……
ピンポーン
えーと、ここって富永氏の部屋よね。なんで部屋のインターホンを鳴らすのかしら。
疑問に思いながらも私はボタンを押して通話にした。
「はい?」
『よかった。居てくれたんだ』
……それって、私が約束を守らないと思われたということかしら?
そんなことを思っていたら玄関のドアが開く音がした。なので、通話を切ってリビングを出て玄関へと向かった。
「富永さん、おかえりなさい」
「……ただいま、茉莉」
って、ちょっと! なんで、抱きしめてくるんですか!
私と顔を合わせた富永氏はカバンを放り出すと、私をギュウッと抱きしめてきた。体を離した富永氏は、私の顎を捉えて少し上を向かせるようにした。顔が近づいてくるので、……あー、キスされるなー、と心の片隅で思って目を閉じようとしたら、富永氏の動きが止まった。
どうしたのだろうと思って、富永氏のことを見つめたら、視線がぐるっと回った。……いや、違う。富永氏に抱き上げられたのだ。
「えっ? ちょっと」
戸惑いの声をあげたけど、富永氏は何も言わずにリビングへと入り、ソファーへと私を下ろした。そして私の前に跪いて頬へと手を当て、親指の腹で涙袋の辺りを触ってきた。……そういえばこの数日よく眠れなくて、目の下に隈がはっきり出来ていたなと思いだした。
「悩ませたか」
ぽつりと呟くように言われて、富永氏が誤解したことに気がついた。……いや、半分は誤解じゃないけど、でも富永氏のことだけで悩んだわけではなかったのよ。なので。
「えーと、まあ、少しだけ。……でも、半分ですよ」
「半分って……いや、今はいい。それよりも、もう休め」
そう言ってまた、私を抱きあげようと腕を伸ばしてきたので、その腕を押さえつけるように掴んで止めた。
「待ってください。私は話をしに来たんです」
「それは明日でいいだろう」
「それじゃあ、ここに来た意味がないじゃないですか」
「意味はあるだろ。俺が安心する」
あまりな言葉に絶句した。嬉しいと思う気持ちに何とか蓋をして、私は言った。
「わかりました。私には話すことが先決でしたが、聞く耳を持たないというのであれば帰ります」
「帰るのは許さない」
「許さないって、何様ですか! 私の意志を無視するのでしたら、そんな人には付き合えません。金輪際ここには来ませんし、預かっていた合鍵も返させていただきます」
そう言って睨んだら、富永氏も睨み返してきた。けどすぐに拗ねたような顔をして、顔を背けたのでした。