101 心配をかけていたようです
「茉莉」と祖母が呼びかけてきた。なので、祖母へと視線を向けた。
「でもね、茉莉。私達は心配なのよ。娘一家にあんなことがあって、ただ一人残されたあなたはここに戻ってくるのは辛いだろうと思ったの。だからあなたの心の傷が癒えるまで、待とうと思っていたのよ。もしくはあなたにいい人が現れて、幸せを見つけてくれるのではないかと期待をして待っていたの。でも、あなたは殻に閉じこもってそんな気配は微塵も感じられないじゃない。別にね、結婚をしなさいと言っているのではないのよ。あなたがそういう気にならないのなら、結婚なんかしなくていいわ。だけど、一人だけ離れたところで暮らすのではなくて、私達のそばにいてくれないかしら」
それから「安心するのよ」と続けて、祖母は微笑んだ。
今まで何も言われなかったけど、やはり心配をかけていたようだ。私は何と答えようかと、少し考えた。
気がつくと、優しく頬に触れる手があった。いつの間にか俯いていた顔をあげると、父方の祖母がそばに来ていた。
「茉莉、辛いことがあったのではないの。それとも仕事がきついのかい。こんなにやつれてしまって。よく眠れないのだろう。目の下に隈が出来ているからね。そこまで無理をすることはないんだよ。辞めて帰ってきても誰も責めないからね」
優しく目の下や頬を撫でられた。……ただの寝不足なのに、誤解を与えてしまったようだ。
「違います、おばあちゃん。これはただの睡眠不足なだけなの。ちょっと普段使わない方面の考え事をしていて、眠れなかっただけだから」
私は顔をあげて部屋の中のみんなの顔を見回した。
「心配をおかけしてしまい、すみません。でも、私は仕事を辞めるつもりはないです。たしかにアレクに会えるかもというのが、あの会社を選んだ志望動機でした。でも、それ以上に今は仕事にやりがいを見出しています。それから、結婚とかもまだ考えられないけど、でも、今までのままじゃいけないとも思っているの。もう少し、向こうにいさせてください」
私はみんなへと頭を下げたのでした。