99 腐……な友人たち
私が考えながらあげた言葉に「わかっているじゃない」と愛花が返してきた。
「なんかさ聞いた話だと、宮下は会社で噂が回って、微妙な立場らしいんだよ」
「噂? って、どんな?」
「そのものずばり、ゲイ疑惑」
愛花がニヤッと悪い笑みを浮かべた。
「それで開き直ればいいものを、誤魔化そうとしたみたいなの。始まりは女に言い寄られて、ホテルに連れ込まれたせいなんだって。覚悟を決めて手を出そうとしたけど、結局たたなかったとかで、その女がゲイ疑惑を広めたらしいのよ。宮下は肉食系は苦手だとか誤魔化していたらしいけど、同じ手で清楚系の女性に一服盛られて、結局出来なかったみたいよ。で、その女にももっとひどい噂を流されたみたい」
私は呆れた視線を二人に向けたけど、二人も頷いてくれたから意味は分かってくれたのだろう。
「清楚系ってその女、見た目だけでしっかり肉食じゃない。宮君も甘かったわね。もう少しうまく立ち回れなかったのかな」
「まあ、仕方ないんじゃないか。あいつは指向がそっちみたいだけど、まだ経験はないみたいだぞ」
「ガードが甘いのよ。いや、硬いのかな。でも、チェリーにはきつかったんじゃないの」
「だからって俺を誘うなよ。俺は二次元で見る分には好きだけど、現実で見たいと思わないし、自分がどうこうなりたいわけじゃないんだからさ」
田村のボヤキに愛花が背中をポンポンと慰めるように叩いた。
「本当にそうよ。推しカプの話を宮下に聞かれたのは、私達がうかつだったけどさ。だからって現実もそうだと思わないでほしいのよね。私の祐樹を引きずりこまないでほしいわ」
「引きずり込まれるわけないだろ。俺は愛花の描く彼らが好きなのであって、そういうことをするのなら愛花を貪りたいんだ」
「やだ~、もう~、祐樹ってば~。こんなところで何を言ってんのよ」
うん。本当に何を言ってくれちゃってんの。……あー、もういい。必要なことは聞けたから、二人にはお帰り願おう。
愛花にはブーブー文句を言われたけど、田中と二人仲良く腕を組んで帰って行った。
あの二人の関係は……BL専門の漫画家の愛花と、その作品をこよなく愛するファンの田中……だった。大学1年の夏、コミケである意味運命の出会いを果たした二人。まだデビュー前の愛花の作品に惚れ込んで、ファンとして接していたはずだったのよね。
それが……運命というのはこういうものかと思ったのは内緒よ。