閑話 解決の……木曜日
木曜日。結局昨日のうちに資料の作成は完成しなかった。数字を入れ替えるだけだというのに、その数字がどれなのか、事務の女性たちは解っていないことがわかった。
今まで、同じものを同じ様にしか作ってこなくて、書類の内容を理解していなかったとは……。だから、同じ様式だといっても、作成に時間がかかっていた……ようだ。
とにかく午前中に比較対象資料を完成させろと厳命したけど、出来上がるかどうか……。
「これなら自分で作った方がましだ!」と、永井と上矢がキレかかっている。それを宥めながら、女性たちの様子を見つつ、自分の仕事をしていた。
「えっ?」
三隅の驚いた声が聞こえてきた。それからパソコンに張り付くように画面を見だした。隣の席の女性が訝しそうに、三隅のパソコンを覗き込んだ。
「ええっ? うそ、なんで?」
「ねえ、もしかしたら、あなたのパソコンにも……」
その女性も三隅の言葉を受けて、自分のパソコンの操作をして……同じように張り付くように画面を見だした。他の3人の女性も三隅達のそばに来て画面を覗いて、すぐに自分の席に戻って同じ様な行動をした。
不可解な行動に俺は席を立って、三隅のパソコンを覗き込んだ。
「へえ~、さすがだね。というか、お前らやっぱ馬鹿じゃん。大石さんが用意しておいてくれたのに、今まで気がつかないなんてさ」
岸本の嘲笑を含んだ声が聞こえてきて顔をあげたら、隅の席の女性のパソコンを見ている岸本がいた。
「おっと。ここでまた教えていかなかった大石さんが悪いなんて言わないだろうね」
「……言いません。永井さん、1時間ください。それで仕上げて見せます」
三隅が他の女性のパソコンを見ている永井へと、視線を向けて言った。
「そういうのだったら、やって見せてよ」
永井の言葉に頷くと、三隅は猛然とキーボードを叩き出した。そして、言葉通りに1時間で資料を作成し終えた。
……2課の事務員に配属されるくらいだから、能力に問題はなかったのだろう。だけど三隅たちは、2課の営業男性たちに舞い上がり、恋愛……に発展させようと、アプローチをすることに勤しんでいたようだ。本当に、会社をなんだと思っているんだか。
まあ、資料が出来上がったとはいえ、取引先に謝罪して回らないとならんのだろうな。
俺は深々とため息を吐き出したのだった。