閑話 誤解のある言い方は気をつけよう
「嘘よ。大石さんは、社長秘書が務まらないから、降格で2課に来ることになったと聞いたわ」
三隅は唇を戦慄かせながら、言い募った。それに対し、岸本は小ばかにした笑みを口元に浮かべた。
「本当、馬鹿だよな、お前ら。大石さんの何を見ていたのさ」
はっ、と鼻で笑う岸本。営業の男たちも嘲笑を口元に浮かべて事務の女性たちを見ている。
「大石さんは課長と行動を共にしているだろ。つまり、課長として以外の仕事のために、課長付きになったのさ。そんな彼女が、課長が居なくなった2課に残るわけないだろう」
岸本の言葉に、そんなことは想像していなかった女性たちは、意味を呑み込めたものから顔色を青ざめさせだした。
「噂に踊らされて、真実が見えてないだけじゃなく、自分の無能さを露呈させてんだもんな。お前らさ、大石さんは今まで午後は課長についていないことが多かったよな。それなのにお前らからの余計な仕事も終わらせてから、課を後にしていただろう。つまり、お前らは自分の仕事のできなさを、証明してくれたってわけだ。俺たちに色目を使う前に、仕事をちゃんとしろよ。まあ、今更遅いかもしれないけどな。ねえ、富永さん」
岸本が意味ありげに俺のことを見てきた。……こいつは彼女に課せられたあの仕事のことを知っていたようだ。……というか、ここで俺に振るか?
女性たちが不安そうに俺のことを見てきた。
「岸本の言う通りだ。君たちは噂を信じたり、勝手な思い込みで、大石君に仕事を押しつけたようだな。自分たちの態度を棚に上げて、ここにいない大石君のことを不当に貶めようともした。それだけでなく、会社に損害を与えている」
「私は、そんなつもりは」
「じゃあ、どういうつもりだったというのだ」
三隅が声をあげて何か言いかけたが、遮るように声を被せて睨むように見た。途端に口を噤む、三隅。
「現に、資料がないためにもう3日も、取引先を待たせているんだぞ。さっきお前は資料を作れないと言ったな。このまま資料が作れなくて、取引先が契約を打ち切ると言い出したらどうするんだ。会社に多大な損害を与えて、その責任が取れるのか」
「そ、そんな」
真っ青な顔で呟いた三隅。ほかの女性たちも、ことの重大さがわかったみたいで、同じように顔を青くしていた。
「わかったらさっさと資料作成に入れ」
俺の言葉に、女性たちは必死な顔をして、パソコンに向かいだしたのだった。