閑話 事実に……気がつくのが遅いだろ
「ひどいわ。私達は仕事をかき回されて迷惑していたのよ。引継ぎもなしに急に休んだ大石さんが悪いじゃない」
「そうよ。七面倒な資料を作ったりするから、私達が苦労することになったじゃない」
「最近は残業もほとんどなかったのに、昨日は2時間も残業しないと終わらなかったのよ」
「大石さんの分を私たちがカバーしているんだから」
三隅以外の女性たちも口々に彼女が悪いと言い出した。だが、彼女たちの言葉は裏を返すと、いかに自分たちが仕事をしていないかの証明になるのだが、そのことに彼女たちは気がついていないようだ。
……というよりも、これが岸本が言いたかったことなのだと、やっと俺は理解した。彼女は俺の秘書としての仕事以外に、営業の奴らの資料作りをすべて任されていたのだろう。いくら優秀だからといっても、これではオーバーワークといわれるわけだ。
「お前ら、自分の怠惰を人のせいにしてんなよ。というか、自分の仕事を他の奴に回してさぼってたって、言っているようなもんだろ。大体さ、比較対象資料の有益が認められてんのに、なんで作成の仕方を聞いとかないんだよ。そのせいで俺たちは、取引先に待ってもらってんだぞ。足を引っ張るのも、いい加減にしろよな!」
上矢が女性たちを怒鳴りつけた。女性たちは青い顔をして、中には涙目になっている者もいた。
「なによ。私は悪くないわよ。大石さんに仕事を振っただけでしょう。これからのためにしたことなのに、なんで悪く言われなきゃならないのよ!」
三隅が涙を目に溜めながら、言い返した。
……ちょっと、待て。女性たちは本気で彼女がずっと2課にいると思っているのか? 俺はそこを問いただそうと口を開こうとしたら、先に岸本が口を開いた。
「三隅さんたちは、何を勘違いしているのかな。なんで大石さんがずっと2課にいると思っているわけ?」
「えっ? だって、部長が言っていたじゃないですか」
「はっ! 本当、こういうことをやらかすくらいだから、馬鹿だろうと思っていたけど、本当に馬鹿だったんだな」
「馬鹿って何ですか、岸本さん。ひどいわ」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い。部長は大石さんのことを移動してきたことと、課長の補佐だと言っただけだろう。ずっといるとは言っていなかったぞ」
「えっ?」
三隅を含む事務の女性たちは呆けたよう顔をして固まったのだった。