閑話 人の手柄の横取り……だったのかよ
三隅と呼ばれた女性が叫ぶように言って、誰もいない前の席を睨みつけた。
「ちょっと待ってもらおうか」
俺は二人のそばに行って声をかけた。女性はビクリと大きく体を震わせた。
「その資料というのは、前に見たあれだよな。あの資料を作ったのは、君ではなかったのか」
「あっ、えっと、その」
女性はオロオロと視線をあちこちに向けながら、言い訳にもならない言葉を言った。その様子に苛立った俺はつい声を荒げてしまった。
「どっちなんだ。はっきりしたまえ!」
「はっ、わ、私ではないです」
「なんだ、やっぱりそうだったのか」
永井が納得したように声をだした。永井のことを見たら、肩を竦めてから説明をしてくれた。
「おかしいと思ったんですよ。三隅さんとは4月から組んでいますが、今までは普通の資料しか作成していませんでした。比較対象資料なんて気の利いたものを、作れるとは思っていませんでしたから」
……つまり、あの資料はこの三隅ではなくて、彼女が作ったものだったのか。だけど、あの後も似たような資料の作成をいくつかしたはずだ。それも、永井以外の営業の奴も。……まさか。
気がついたことを確かめるべく、事務をやっている女性たちの顔を見ていく。女性たちは俺と視線を合わせないように、逸らしていった。
「ということは、大石君がここに来てから、資料作りは一任していたということか」
俺の言葉に三隅がキッと眦をあげて、睨むように俺のことをみてきた。
「それの何がいけないんですか。大石さんは課長付きとはいえ、2課の事務員です。これからも2課にいるのだったら、資料作りに慣れておくべきです。私は大石さんのこれからのことを思って仕事を回したのよ。それなのに急に休む大石さんが悪いんじゃない!」
三隅の言葉に事務の女性たちが同意するように頷いていた。その様子を営業の男たちが呆れたようにみている。中には永井のように怒りを顕わにしている奴もいた。……いや、俺が口を開く前に、声に出して文句をいう奴がいた。
「仕事ができない言い訳にしてもひどいだろ」
「なんですって。私は精一杯やってきたわ。それなのに、大石さんが勝手に比較対象資料を作ったりしたから悪いんじゃない!」
「自分の怠惰を人のせいにするなんて、最悪な女たちだな」
上矢が吐き捨てるように言って、事務の女性たちを睨んだのだった。