閑話 彼女のいない、月曜日
「おはようございます、富永さん」
「おはよう、小暮君。昨日連絡したように、来週の火曜まで、大石君が休むことになった。君には彼女の代わりに私についてもらいたい」
「もちろん、わかっています。大石さんほどのことは出来ませんけど、精一杯務めさせていただきます」
小暮は彼女とともに俺付きとして配属された。彼は将来の社長秘書候補だ。彼は入社して6年目になる。うちの会社では秘書も現場を知るべしと、入社して数年はあちこち回されることになっている。なので、ちゃんと秘書の仕事に入るのは大体が入社6年目以降になる。
あの秘書室長をしている父でさえ、10年ほどいろいろな部署を回ったと聞いている。それを考えると、彼女の抜擢は異例中の異例だったのだろう。……まあ、これを知るのは会社の上層部だけなのだがな。
小暮と本日の本部長としてスケジュールを確認していると、ノックの音が響いてすぐに扉が開いた。
「おはようございます。で、大石さんが休みってどうしたんですか。まさか無理矢理襲って動けない状態にしたんじゃないですよね」
そんな失礼なことを言いながら、岸本が入ってきた。
「馬鹿野郎、そんなことをするかよ。大石君は事情が出来て数日休むことになったんだ。それにもともと今週末に休みの申請がしてあったそうだから、そこまで連続して休むことになっただけだ」
俺の言葉を疑わしそうに見る岸本。
「本当にオーバーワークで倒れたんじゃないんですね」
「オーバーワーク? そんなわけないだろう」
そう答えたら、岸本と小暮は顔を見合わせた。そのあと、ヤレヤレという顔で岸本は言った。
「まさか気がついてないとか、言いませんよね?」
「何のことだ?」
「げっ、本当に気がついてないのかよ。大石さんもそこまで甘やかさなくてもいいのに。……いや。ちょうどいいか。彼女が居ないことがどういうことか、わからせるにはちょうどいいだろう」
「だから、何のことだ!」
勝手に一人で納得する岸本に、わかるように言えと、言外に圧力をかけて言ったが、岸本はニヤリと笑い返しただけだった。
「まあまあ。富永さんもさ、彼女の有難みをよーく実感してよ」
意味深な言葉を残して、岸本はさっさと本部長室から出て行ってしまった。意味が解らないながらも、俺たちもこのあと2課へと行った。
彼女が休むことを課員に伝えると、事務の女性たちが色めき立つのがわかった。あからさまな態度に、俺はため息を堪えたのだった。