外話 母はおもう……
克明は言いたいことを言って、すぐに帰って行った。残された私たちには、先ほどまでと違って、暗く沈んだ空気が流れていた。
金曜日に、茉莉さんによからぬことを企んでいた人から、茉莉さんを引き離すことが出来て、私はほっと一安心したところでした。パーティー後、茉莉さんを連れて帰っていく克明の姿に、私はひそかにエールを送っていたわ。これでなんの憂いもなく、茉莉さんに告白できるようになったことでしょうと、思っていたのよ。
私の目から見て、克明は茉莉さんのことを大切に思っているみたいで、片時も離したくないと、かなり強引に何度もマンションに連れていっているみたいでした。でも、真面目なあの子のことだから、茉莉さんに無理矢理関係を迫るようなことはしていなかったはず。
もともと克明は会社経営者の一族ということで、将来を有望視されて女たちに囲まれることが多かった。顔も整っていて小学校のころからモテていたのは知っていたわ。だからこそ克明は、女性を苦手としている節があったの。いえ、苦手というより敬遠していたのね。近寄ってきた女性たちのそういう思惑が透けて見えるから、適当にあしらっていたのだったわ。
そして我慢できなくなって日本から飛び出した。……これは違うわね。我慢できなかったのは確かだろうけど、興味が仕事のほうを向いていたのも確かだもの。おかげこの7年間はのびのびと過ごしていたようだったわ。
でも、私達は別の心配もしていたのよ。女性に失望した克明が男性に走ってしまったのではないかと思ったりしたのね。……さすがにそれはなかったみたいで、適度に女性とお付き合いをしていると報告がきて、これは青い目のお嫁さんを連れて帰ってくるのも、時間の問題かと思ったりもしたのよ。
結局そんな人を連れてくることなく日本に戻ってきたときには、肩透かしを食らった気分だったわ。
そんな克明は茉莉さんのことを最初は誤解していたみたいだったそう。茉莉さんが自分付きになるのを嫌がっていたと、夫が言っていたの。それが一緒に仕事をして、茉莉さんの優秀さに目を瞠ったみたい。それに茉莉さんは、克明に必要以上に接しようとしなかったらしいわ。
今までは女性からアプローチばかりされていたから、何もしてこない茉莉さんに逆に興味がわいたのね。それと、仕事ゆえなのか茉莉さんが出しゃばらない性格なのも、克明は気にいったみたいだったわ。