閑話 実家に顔を出して……
実家に着いて居間に顔を出したら、家族が勢ぞろいしていた。俺だけが顔を出したことに落胆の色を隠さないのが、神経に触りイライラが募る。
「克明、お前だけなのか」
「そうだけど」
端的に言って親父たちのことを睨むように見まわした。それを不快に思ったのか、親父が口を開いた。
「彼女はどうしたんだ。なぜ一緒に来なかった。それとも何か。まだ口説けないのか。お前は彼女の好みではなかったのか。……まあ、それなら仕方がないか。彼女にも選ぶ権利はあるんだからな」
親父の言い草に俺はこぶしを握った。
「勝手なことを言うなよ。肝心なことを教えてくれなかったくせに。接し方を間違えたら、彼女を余計に傷つけることになるところだったじゃないか。恋愛で傷ついていたのなら、どんなことをしてでも忘れさせてやるけどな、家族を亡くした傷じゃあ、簡単に塞いでやれないだろう。まして楽しかった家族旅行から一人離れて帰宅して、家族が事故で亡くなったなんて知らされたら、もう恋愛や結婚をしたくないと思ったって仕方ないだろう」
そう言ってやったら、居間にいた人たちは動きを止めた。中には驚愕の表情を張り付けている人もいた。あまりの白々しさに俺は鼻にしわを寄せて睨みつけた。
「どういうことだ?」
「どういうって、言ったとおりだよ。彼女は社会人になった年の夏に、年の離れた妹の願いを叶えるために、父親と休みを合わせて家族旅行に行ったんだ。その帰りに一人だけ駅で別れて旅行先から帰宅して、夕方に事故で家族全員が亡くなったと連絡を受けたそうだ。それ以降、また家族を亡くすのが怖くて、恋愛をする気になれなくなった。……って、まさか知らなかったのか」
俺が彼女から聞いたことを口に出したら、皆して表情を暗くしていった。秘書室長の父でさえも、眉根を寄せて考え込んでしまっていた。
このあと、俺は早々に実家を出て、マンションへと戻った。本当にため息しか出てこない。まさか、父たちが知らないとは思わなかった。てっきり彼女を抜擢したくらいだから、彼女の事情をすべて解ったうえで、そばに置いていたのだと思っていた。
親父たちの狼狽えぶりに、やはり彼女には何かがあると、思わされたのだった。