89 富永氏は……優しい人……
「今はこれで我慢してやる」
尊大な感じに言って、また私の頭を撫でだす富永氏。困惑した気持ちのまま富永氏のことを見つめたら、苦笑を浮かべられた。
「そんな顔をするなよ。言いたいことやしたいことを、グッと我慢しているんだからな」
富永氏は私の頭を引き寄せると胸につけて、抱きしめなおした。
「茉莉が言いたいことは分かった。確かに茉莉と出会ってから、顔を合わさなかったのは二日だけだったからな。しばらく離れるのも有りだろう」
そう言いながら、頭を富永氏が触っている。……けど、これって、もしかして頬擦りしてませんか?
「えーと、富永さん、何をしているのでしようか」
「茉莉成分を取り込んでいるんだから、気にするな」
「……気にするわ! ええい、放れんかい!」
富永氏はじたばたと暴れる私を、ギュッと抱きしめた後、放してくれた。三歩離れて睨んだら、ニヤッと笑い返された。
……うん。いろいろ察しましたよ。……だから、私も普段通りにすることにします。
「富永さんって、好き嫌いってあります?」
唐突な私の言葉に、目を瞬かせる富永氏。
「……好き嫌いって?」
「だから、食べられないものって、何かあるんですか」
少し呆けてから、富永氏が半信半疑な感じで訊いてきた。
「もしかして、何か作ってくれるのか?」
「そうですけど。……えーと食材を確認して、買い足した方がいいですよね?」
私の言葉に富永氏はバッと立ち上がった。
「買ってくる」
そういってリビングを出て行こうとしたので、私も追いかける。だけど、扉のところで振り返って言われてしまいました。
「茉莉は待っていろ」
「一緒に行きます」
「戻ってくるまで、目を冷やしていた方がいいぞ」
その言葉にピタリと足が止まった。確かにあれだけ泣いたのだから、瞼は腫れていることだろう。
「すぐ戻ってくるから」
そういうと、富永氏は自分の部屋に入り、すぐに出てきて行ってしまった。
私は……おとなしく待っていましたよ。タオルを借りて濡らすと、目を冷やしていました。
で、戻ってきた富永氏とともに、キッチンで昼食を作ったんだけど……その、ね。富永氏のほうが、手慣れていないか?
というか、何で一緒に作るの?
なんか……解せぬ……。