87 どうしていいか……わからない……
堪えきれずに涙があふれてきたけど、約束通りに富永氏は動かなかった。
……ううん、違った。富永氏は立ち上がって、リビングを出て行った。すぐに戻ってきて、タオルを渡してくれた。それから、キッチンに行き、お水を持ってきてもくれたの。
でも、それ以上は、……約束通りに前の席に戻って、待ってくれていた。
涙が止まり、お水を飲んで一息吐いてから、私はまた口を開いた。
「周りに心配をかけていたのはわかっていました。でも、私は恋愛から逃げていました。誰かを好きになって、大切な人を作るのが怖かったのです。……だからでしょうね、馬鹿なたくらみつきだった尾関さんと付き合うことをしたのは。彼なら……私の大切な人には、ならないと思ったから」
自嘲気味に口元を歪めて笑いながら、私は言った。それから、また浅い呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着けてから、富永氏のことを見つめた。
富永氏の労わりを込めた眼差しと目が合い、ドキリと大きく心臓がはねた。
また、ジワリと涙が込み上げてきた。
「私は……一人で生きていこうって、決めていたのです」
声が震える。
「なのに……富永さんと……出会ってしまった」
両手を強く握りしめて、言葉を続ける。
「私……どうしていいのか、わからないのです。……富永さんの隣は、居心地がいい。……ずっとそばにいたいと思ってしまうくらいに。……好きだって言われて嬉しかった。……でも……その先を考えると……怖いのです」
涙が頬を伝っていった。それでも、私は富永氏の顔をじっと見つめていた。富永氏は何も言わずに、また待ってくれていた。
私は何度か大きく呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせるようにした。
「少し……時間をください。……離れて、考えたいのです」
この言葉が合図みたいに、富永氏は椅子から立ち上がりそばに来た。富永氏の腕が伸びてきたなと思ったら、そのまま抱きあげられたのでした。