9 どうやら送ってもらえるらしい
富永氏に抱きかかえられた私は、そのままお店の外へと連れていかれた。ドアを高杉君が押さえてくれていた。
お店の前にはタクシーが止まっている。その中に降ろされたと思ったら、富永氏も一緒に乗り込んできた。そして岸本君が私のバッグを富永氏に渡している。富永氏はそれを受けとりながら「付き合えなくて悪いな」なんて言っているぞ。
「いえ。大石さんの顔色が変わらないんで、調子に乗って飲ませ過ぎました。課長こそ、送らせてしまってすみません」
「気にするな。こっちも明日に用があるんで、二次会で帰るつもりでいたからな。お前らも明日が休みだからって、羽目を外し過ぎるなよ」
「了解です」
ビシッと、敬礼をした岸本君以下、二次会参加組。……酔っているな、このノリは。彼らに見送られて、タクシーは扉を閉めた。
「青葉町のほうへ行ってくれ」
聞こえた言葉に ? となる。青葉町は私が住んでいるところとは全然方向が違う。
「課長、送ってくれるんじゃないんですか」
「送っていってもいいが、お前はそんな状態でどうするつもりだ」
「どうするって、大丈夫です。あと30分くらいすれば、動けるようになります」
そう言ったのに、疑わしそうな目を向けられてしまった。
「自分で歩けないくせに」
「大丈夫ですってば。運転手さん、行き先を向陽町にしてください」
「向陽町ですね。わかりました」
「違う。青葉町にしてくれ」
「えーと、青葉町でいいんですか」
「向陽町に行ってください」
「青葉町だ!」
「お客さん、どっちに向かうか決めてくださいよ」
運転手さんは悲鳴のような声をあげて、タクシーを道の端に寄せてハザードを出して止まってしまった。
ムッと富永氏のことを睨みつけたら、富永氏にも睨み返されたのでした。