1
ティアリーゼが目を覚ましたのは、それから三日過ぎてからだった。
更にそこから療養して早十日。
動けない身体ではどこへ行くこともできず、おかげで考える時間がたくさんできた。
だいぶ気持ちも落ち着き始めていたが。
「い、いたた」
胸元を毛布で隠しながら、背中の治療を受ける。
本当ならメルチゥがやってくれるはずだったが、どうもティアリーゼの知らないところでシュクルがごねたらしく、魔王様本人による手当てが行われていた。
その手つきは非常に危なっかしく、傷のある場所に思い切り触れられたりとなかなか容赦がない。
「動くな」
「だったらもうちょっと優しくして……」
「している」
「……やっぱりメルチゥを呼んでくれると嬉しいのだけど」
「嫌だ」
そもそもシュクルの前で肌を晒すこと自体が恥ずかしい。
ティアリーゼは熱くなった顔を隠しながら、自分が眠っていたときのことを考える。
(……あれから三日も経っているなんて信じられない)
痛みにうなされている間、何度も夢を見た。
燃え盛る故郷と人々の悲鳴。蹂躙するのは月光と同じ色をした白い竜――。
つきり、と胸が痛む。
何度裏切られても、やはり兄のことを殺したくはなかった。
いつかはわかり合えるはずだと信じていた――。
「っ!」
突如、肩に冷たいものが触れて息を呑む。
振り返ろうとした瞬間、そこに鈍い痛みが走った。
「な、なにをしているの」
「柔らかそうだと思った」
はぐ、とシュクルがティアリーゼの肩を甘噛みする。
今はいつもと同じ人型を取っているせいでそう強い痛みはない。
だが、あのときのように竜の姿となれば、顎に力を入れる前に牙がティアリーゼを引き裂いているだろう。
「人間は美味くないが、お前は美味い」
「食べないでね……」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
愛玩動物のようだったシュクルには正しく獣としての本性がある。そこの部分だけは、人間であるティアリーゼと決して相容れない。
兄を殺さないでほしいという懇願も、シュクルは冷静に跳ねのけた。
最初に目が覚めた瞬間、ティアリーゼは身体に残る倦怠感も痛みも忘れ、シュクルに詰め寄ったのだ。
なぜ殺したのか、と。
それに対してシュクルは平然とこう言った。
――ティアリーゼを傷付けられた報復をするためだ、と。
あまりにも当然のように答えられ、ティアリーゼはその場にいたトトやメルチゥに助けを求めてしまった。
凄惨な現場を語り、やりすぎだろうと訴えたが、二人ともシュクルと大して反応は変わらなかった。
仲間を傷付けられたのなら仕方がない。むしろ、タルツという国が残っているだけよかっただろう。シュクルの行為は最もなことである――。
のちに見舞いに来たキッカにも同じように言われ――キッカはよく喋るだけあって、ティアリーゼを納得させる説明も上手だった――ついにティアリーゼは彼らの言い分を飲み込んだ。
彼らは淡泊な考え方をするが、自分の仲間に対しての思いは非常に強い。種族によって差はあるようだが、特にシュクルは『お気に入り』へ強い思いを抱く一族だということだった。
確かに、とティアリーゼは考える。
物語に現れる竜は、大抵が各地から集めた宝の山を寝床にして生きている。金貨一枚奪われただけで国を滅ぼし、たった一人への報復のために屍の山を築き上げる生き物――。
シュクルにとっての『宝』がティアリーゼならば納得がいってしまう。
本人が言ったように、ただ報復を果たしただけなのだ。ティアリーゼを奪われ、そして傷付けられ、目の前で殺されそうになったときのシュクルの感情を思うとうすら寒い気持ちにすらなる。
本当にあれは手加減した方だったのだ、と。
「傷が消えない」
思考に没頭していたティアリーゼに向かってシュクルが言う。
その手がつぅ、と背中を撫でていった。




