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 一方、ティアリーゼは親しく話す相手もなく毎日を一人で過ごしていた。

 もっとも、正確に言えば一人ではない。

 今も結婚式のドレスを作るために、何人もの針子たちが集まっている。

 しかしどうにも空気が重かった。


(なにか喋った方がいいのかしら……)


「……あの」


 ついに耐えきれず声を発すると、一気に緊張が走った。

 十人以上も人がいるというのに、誰もティアリーゼと目を合わせようとしない。

 視線を動かせば、皆不自然に顔を背けてしまう。


(結婚をよく思われていない……ってところかもしれないわね)


 下手に声をかけない方がいいかもしれない、と口を閉ざす。

 再び沈黙が下りてしばらく。

 ティアリーゼよりもずっと年下に見える少女が勢いよく立ち上がった。


「ティアリーゼ様はこれでいいんですか!?」

「えっ」


 少女に詰め寄られ、うろたえてしまう。


「これでいいって……なんのことを言っているの?」

「結婚です! 今回の結婚は亜人とだなんて……!」

「やめなさい、ミリア!」


 他の一人が少女を止める。

 それでも、ミリアと呼ばれた少女は黙らなかった。


「いくらこの国のためだからって、こんな結婚はひどすぎます!」


(……え?)


「ティアリーゼ様が犠牲になることなんかないです! せっかく無事に魔王のもとから帰ってこられたのに……!」


(……あれ、私ってどういう風に伝わってるの?)


「あの……ちょっといいかしら」


 鼻息を荒げているミリアにそっと声をかける。

 誤解があるのは間違いなかった。

 ティアリーゼは望んでシュクルの妻になるのだし、帰ってきたのだってむしろシュクルの協力があってのことだった。


「私のことをどう聞いているの……? その……犠牲とかって聞こえたけれど……」

「それは――」


 他の者が止めるのも聞かず、ミリアは語りだした。

 ティアリーゼは勇者として旅立ち、そして死闘の果て、魔王に囚われてしまったのだと。なんとか逃げ出してきたが、魔王はお気に入りの玩具を手放すつもりなどなく、国を滅ばされたくなければティアリーゼを差し出せと言っていると――。


「待って、お願い。ちょっと待って」


(なにからなにまでどうしてこんなことに)


 ティアリーゼは額を押さえ、今の話をなんとか飲み込む。

 勇者として旅立った、以外に合っている箇所がひとつもない。しいて言うなら、シュクルがティアリーゼを手放したくないと思っているところだろうか。だが、それ以外は事実無根の、ティアリーゼ自身混乱するような内容だった。


「それは事実ではないわ。私は自分から望んで……」

「おいたわしいです。なんて健気な……」


(……いやいや)


 自分より年下の少女に本気でそう言われるのは、なんとも居心地が悪い。

 これは誤解を正した方がいいだろうと、その場にいる全員を見回す。


「他のみんなも、そういう風に聞いているのかしら?」

「……はい」

「ティアリーゼ様は毎晩泣いていらっしゃると聞きました」

「お部屋の前を通るとすすり泣きが聞こえたという話も……」


 思っていたよりもずっとおかしな方向に話が広がっていたらしい。

 しかも彼女たちはそれを信じている。

 これは一大事だった。

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