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 ティアリーゼを招き入れた王は、ずいぶんと疲れた様子だった。

 自分のことを話すよりまず、そちらを心配する。


「お父様、どうかなさったのですか?」

「なに、最近することが多くてな」


 タルツ王は懐かしげに目を細め、ティアリーゼを見つめる。


「また、お前に会うことが叶うとは……」

「……お父様も知っていらっしゃったのですよね。私の本当の役目を」

「それを決めたのはこの私だからな……」


 もう、ティアリーゼは傷付かなかった。

 必要な話なら既に兄に聞いている。


「私は誰のことも恨んでおりません。むしろ、そうして育て、送り出してくださったことを感謝しております」

「亜人のもとで囚われの生活を送るようになっても、か?」

「それは誤解です。私は魔王と……シュクルとの結婚を伝えるために今日、こうして参ったのですから」

「…………結婚、か」

「はい。魔王との関係は非常に良好で、同じく身近にいる亜人たちも友好的な人々ばかりでした。だから結婚を決めたのです。人間と亜人は協力して生きていけるのだということを知らしめたくて」

「…………ふむ」

「どうか、その場にお父様も足を運んでいただくことはできないでしょうか。二つの種族の未来を決める場に、参列いただきたいのです」

「……ティアリーゼ」


 王は小さな子供へ向けるように優しく名を呼ぶ。

 呼ばれたティアリーゼはおとなしく頷いた。


「参列するのはエドワードだ。次の王となる者がいることで、より未来を重視していることが伝わるだろう?」

「お父様……! ありがとうございます……!」


 父が式に現れないというのは残念だった。

 だが、決して軽んじているわけではないことを、エドワードの参列を認めることで示してくれる。

 ティアリーゼの胸が熱い思いでいっぱいになった。


「私……私は娘として認められていないのだと思っていました。だから供物として捧げられることになったのかもしれないと……」

「……そんなことはない。お前を選ぶことになってしまったのは……母のことがあるからだ」

「……それは幼い頃に亡くなったお母様のことではなく、私の本当の母のことですか」

「そうだ」


 ゆっくり、深呼吸する。

 その話はエドワードも深く教えてくれなかった。

 ティアリーゼが知っているのは、母がメイドだったということだけ。


「お前の髪と瞳の色は母から受け継いだものだ。……タルツを興した最初の王ではなく」


(ああ、やっぱり……)


「……薄々、そんな気はしておりました」

「明らかに王家の血筋以外の容姿を持ったお前は、この国の災いのもととなる可能性があった。だからせめて供物として、王女であったという事実だけ残そうとしたのだよ」


 父の言いたいことはティアリーゼにもわかる。

 王家の血筋は守られるべきもので、名も知られていないメイドの血が混ざっていいものではない。しかしティアリーゼにはその別の血が色濃く出てしまった。姫として育てられ、もっと表に露出することになれば、口さがない人々は言うだろう。

 ――あれは本当にタルツ王の子なのか、と。

 ならば哀れな供物となった姫として物語にでも残る方がいい。ティアリーゼも心ない人々に傷付けられず、国の秘密も守られる――。


(……ものすごく自分勝手な話ね。本当に)


 そう、思ってしまう自分がいた。

 ティアリーゼは望んでこのように生を受けたわけではない。

 それでも、父の気持ちに寄り添う。


「もし勇者として魔王を打ち倒し、この国へ戻ってきたときはどうしていたのですか」

「『勇者』として他国への嫁ぎ先を探していただろうな」


(どちらにせよ、ここに私の居場所はなかった……)


 そう知ってもティアリーゼはやはり傷付かなかった。

 もう自分の居場所を見つけてしまったからかもしれない。


「だがな、ティアリーゼ。私はお前のことも、お前の母のことも愛していたのだよ」

「……お父様」

「身分の違いから分かれることになってしまったが……本当に愛していた。でなければ、お前が産まれることもなかったからな」


 独り言のように言うと、王はティアリーゼに向かって手を差し出した。

 側へ来るよう促されているのだと気付き、すぐに近付く。

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