6
その次の日からもう、結婚式についての話を広め始めた。
トトは少し複雑なようだったが、メルチゥは素直に喜んでくれる。以前、タルツまで運んでくれたカラスの亜人も祝福の言葉を投げかけてくれた。
(一応これも政略結婚だと思うんだけど、少しも嫌な感じがしないわね。……嬉しいわ)
ティアリーゼにはタルツの姫としての身分がある。もし勇者でなければそういった政略結婚の駒としての役目を持たされていただろう。
(勇者として育てられてよかった)
鏡の前でティアリーゼは自分を見つめる。
父にも兄にも、そして母にも似ていなかった髪と瞳の色。タルツを興した王と同じものだからと勇者になるきっかけとなったものだが、今となっては適当な理由だったのだろうと思う。
政略結婚を控える――という姫らしい日々を送るようになってから数日後。
ティアリーゼは、シュクルに里帰りを告げた。
「一応、花嫁として向こうで準備をするべきだと思うの。だから結婚式の日までお別れになるわ」
「……わかった、としか言えない。私が嫌だと言えば恋人をやめる話がなくなる」
「そうね……」
「……仕方がない。これからのためだ。私の方ですることは?」
「……式の場所を考える、とかかしら。こちらへ来てって言っても来てくれないだろうし、かといって向こうに行くのも考えものでしょう? ちょうどいい中間地点があればいいけれど」
「考えておく。クゥクゥなら詳しそうだ。飛べるから」
「自分の治める国以外のことも把握しているのね……」
「クゥクゥが特別なだけ」
シュクルはティアリーゼの腰に腕を回す。
以前はもっと落ち着かない様子でキスをせがんできたが、シュクルの中で心境の変化があったようだった。
「お前がいないと寂しい。早く帰ってきてくれ」
「うん」
穏やかな低い声は以前のまま。ただ、子供のわがままに聞こえなくなったのはシュクルの成長によるものだろう。
(最近、あんまり尻尾もぱたぱたしなくなったしね)
シュクルは少しずつ大人になっていく。
純粋で無邪気だった瞳も、今は理知的で冷静な光を湛えていた。
この変化がティアリーゼの存在によるものであることは間違いない。まだまだ会話に難はあるが。
「行ってくるわ」
「……待っている」
さらりとシュクルがティアリーゼの髪を撫でつける。
前髪をかき分けたかと思うと、額にキスを落とした。そのまま、鼻の先と頬と、最後に唇もついばむ。
本物の夫婦のようだ、とティアリーゼが胸をときめかせていることなど知るよしもなく、シュクルはそのささやかな触れ合いを楽しんだ。




