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 トトはティアリーゼをその村まで連れて行くよう、部下に指示を出してくれた。

 タルツへ戻ったときと同じように鳥の亜人の力を借りたおかげで、昼を過ぎる頃にはもう村に着いている。


「……時間が来たら声をおかけしますので」

「わかったわ。ありがとう」


 牢の見張りについていたのもやはり亜人だった。

 なんの亜人かはわからなかったが、時間が決められているのならゆっくりしている暇はない。

 ティアリーゼは牢のある地下へと階段を降り、そこで自分以外の人間である男と向き合った。


「あなたが翼狩りをしていた人ね」

「……なんだ、人間か? 俺を助けに来たってわけじゃなさそうだな」


 男はティアリーゼの質問に答えない。代わりに鼻を鳴らして笑った。


「そんじゃ、慰めにでも来てくれたってか? だったらこの鎖を解いてくれよ。擦れて痛いったらねぇ」

「私にその鎖を解く権限はないわ。あなたと話をしたくて来ただけだから」

「……ふうん? よくあの亜人どもが通してくれたな」

「それは――」

「ああ、あんたアレか。タルツのかわいそうな勇者様か」


 ぎゅっと心臓を掴まれたように感じ、ティアリーゼは顔をしかめる。

 この大陸にはいくつも国がある。その中のひとつがタルツだが、こんなところで亜人たちの平和を脅かす男にまで噂が耳に入っているとは知らなかった。


「……知っているなら光栄だわ」

「俺の知り合いがあんたと旅に出たって言ってたぜ」


(じゃあ、あのとき『仲間』だと思っていた人の中に……)


 眩暈を感じ、側の壁に手をつく。

 彼らの名はいまだに知らない。あのときは彼らの無愛想も素っ気なさも、苦しい戦いで気が張っているからだと思っていた。

 だが、今ならわかる。彼らは名乗る必要性を感じていなかった。ティアリーゼはいずれ命を落とす哀れな供物でしかなかったのだから。


(……こんな話をしたいんじゃない)


 男はティアリーゼの反応を見ている。

 下手に心を揺さぶられないよう、気持ちを落ち着かせて再び前を向いた。


「どうしてあなたは彼らを狩るの? 確かに身体の一部が獣だったり、私たちと違う部分はあるわ。でも、同じように言葉を交わすことのできる『人』じゃない」

「はっはっは。さすが騙されて勇者なんかになるお姫様は言うことがちげぇわな」

「っ……」

「亜人は人じゃない。家畜と同じ獣だ」

「そんなこと――」

「あんたもそう思ったから、勇者として狩りに出たんだろう?」


 ぞ、と背筋が冷える。

 同じ生き物ではない――と、あのときのティアリーゼも思ってはいなかったか。


「人間を襲う『獣』を滅ぼすのが自分の役目だ、その親玉を仕留めなければ人間の世に平和はない……なんて思ってたはずだ。違うなんて言わせねぇぞ」

「私……は……」


(……この人の言う通りだわ。私は亜人の所業を許せなかったから、旅に出たい旨をお父様に告げた。だけど……)


「あのときはそうだったけれど、今は違うわ」


 過去は取り返しがつかない。

 ティアリーゼは自分の気持ちが変わったことを、正しく受け止める。


「もう知っているの。彼らが同じ大陸に生きる『人』だということを」

「…………魔王に篭絡されたってのは本当だったんだなぁ」

「……え?」

「あんた、自分が餌として魔王のもとに送られたのは知ってるんだろ? なのに生きて奴らの仲間に成り下がってる。寵愛を受けてるだの聞いたが、本当らしいな」

「私は篭絡されてなんか」

「はははっ、タルツでなにが起きているかも知らないで、よく呑気にこんなところでくっちゃべっていられるな」


 ははは、と男は笑い続ける。おかしくてたまらないと嘲るように。

 それに憤っている余裕はなかった。

 たった今、男が告げた言葉のせいで。

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