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「はい。……あの人を殺すのが役目だと言われて育ってきました。実際の目的は違ったようですが……あわよくば、という考えで送り出されたことに変わりはありません」
「頼むから、今更やっぱり殺すことにしました、なんて言うのはやめてくれよ。いつか殺すために仲良くしてやってた、なんて、あいつがかわいそうだろ」
「…………」
「やっと、笑うところを見られるようになったんだ。だからほんとに頼むな」
キッカの言葉は重かった。
彼はティアリーゼが本当は誰の味方なのか、まだはかりかねている。
こうして過ごす時間も、油断させるための演技かもしれない。シュクルが心を許したところで残酷に切り捨てるのかもしれない。そういう不安と心配が声色から感じられた。
ティアリーゼにそんなことをするつもりは一切ない。
だが、言ったところで本当の意味で安心させることは不可能だろう。嘘を吐くことは難しくないのだから。
「あの人のこと、気にかけてくれているんですね」
「そりゃあ、誰だって巣立ちしたばっかの雛を放っておけねぇだろ。あんまりいい思いしてこなかったみたいだし、幸せになってくれたらって思うよ」
(……雛、って)
「あなただったんですね。シュクルに雛って言ったのは」
「え?」
「シュクルが自分で言っていたんです。友人にそう言われたって」
「……はは。あいつをそう思ってんのはみんな一緒だよ。俺も、他の奴らも」
(他にもこうしてシュクルを想ってくれる人がいるのね……)
シュクルは家族とすら交流してこなかった。しかし、今はキッカやその他にもわかち合える人たちがいる。
どこでどう出会ったかなど、この際どうでもよかった。
大切なのは、あの無邪気で純粋な魔王の味方がいるということ。
「……私はあの人を裏切りません。たとえ、誰になにを言われようと」
「あんたのその言葉を信じるよ。でも、もしそれを違えたときは――」
「なにを話している?」
ちょうどいいところでシュクルが戻ってくる。もう蝶のおもちゃを見るのに飽きたらしい。
キッカとティアリーゼの間に割って入る辺り、二人で話していたことをおもしろく思っていないようだった。
「内緒だよ。こいつと俺の秘密」
「それは嬉しくない」
「別に悪い話じゃないわ。……いいお友達を持ってよかったわね」
「よくわからないが、私もそう思う」
「お前のそういうとこがかわいいんだよなー」
「私はクゥクゥのうるさいところがたまに嫌いだ」
「そういうとこはかわいくねぇなー」
「ふふ、そう言っているあなたたちが微笑ましいわ」
ティアリーゼが笑うと、シュクルは微かに目を丸くした。
つられたようにうっすら微笑むのを、キッカはきっと嬉しく思っただろう。表情が仮面に隠れていようと、ティアリーゼにはわかるような気がした。
温かい空気が三人の間に流れたとき、ふとシュクルが顔を上げる。
やや緊張をはらんだその動作に違和感を覚えた。
その瞬間、遠くから悲鳴が響き渡る。




