4
会話を楽しみながら三人で街を回る。
初めて見る街には亜人しかいない。人間はティアリーゼぐらいしか見当たらなかった。
タルツの城下町とは違い、あちこちに出店が出ている。
知った匂いもあれば、知らない匂いも漂っていた。おいしそうだと思うもの、なんだこれはと顔をしかめそうになるもの、ティアリーゼにはわからないことが多すぎて逆におもしろく感じてしまう。
売られているものも本当に様々だった。恐らく亜人の種類が多いからなのだろう。
「あそこに売っているものはなに?」
「木の実をハチミツに漬けたもの。小さい仲間が好む」
「小さい仲間?」
「あれだよ、あれ。ネズミとかそういう奴ら。シュシュからしたらちっこいもんな。あ、でもそれ言ったら俺から見てもそうか」
「キッカさんはなんの鳥なんですか?」
「鷹。かっこいいだろ」
「よくない」
「なんでシュシュが答えるんだよ。俺はこいつに聞いたの」
「ティアリーゼは私以外褒めない」
「褒めさせない、の間違いだろ。いっちょまえに独占欲なんか覚えやがって」
笑ったキッカがシュクルを小突く。
しゅう、とシュクルが鳴き声を上げてよろめいた。尻尾がばたばた暴れている。
二人はさっきからそうして何度もじゃれ合っていた。
ついにティアリーゼはその様子を見て笑ってしまう。
「まるで兄弟みたいだわ」
「俺が兄貴なら、あんたは義理の妹になるわけだ。人間の妹かー。くちばしねぇのがなー
うーん、うーん……。まぁいっか、許してやる」
「なぜ、クゥクゥの許しが必要になる?」
「兄貴だからだよ」
「いらない」
「お前な!」
(シュクルにこんな友達がいてくれてよかった)
キッカは面倒見がいいのか、ちょくちょくシュクルに話題を振っては会話を盛り上げていた。
ティアリーゼにも同じように振舞い、三人の時間は和やかに過ぎていく。
やがて、街の広場に出た。
そこにも並んでいた出店のひとつに、シュクルがふらりと近付く。
「シュクル?」
「なんか気になるもんがあったんだろ」
どうやらそこで売っているおもちゃに心を奪われているらしい。
釣り竿のような棒の先に蝶を模した飾りが付いている。振り回せば蝶がひらひら舞うようで、他にも目を輝かせた子供たちが集まっていた。
「あいつ、ああいうの好きだからな。追っかけたくなるんだろ」
「キッカさんはあの人に詳しいんですね」
「いんや? そうでもねぇよ」
(そんなことはないと思うけれど)
ちらりと盗み見ると、キッカは仮面の奥から温かい目でシュクルを見つめている。
本当に兄のように見えなくもなかった。
「……あのさ」
同じくシュクルを見守っていたティアリーゼに、キッカが話しかける。
「なんでしょう」
「あいつ、変わり者だし世間知らずだけど、悪い奴じゃねぇんだ。いろいろあったからズレた人生送ることになっただけで」
「……はい」
「ほんとにあんたのことが気に入ってるんだと思うよ。俺に会わせるぐらいだから」
シュクルは子供たちに混ざって蝶を目で追っている。
相変らず、人間とはほど遠い獣らしい仕草だった。
「……あんた、あいつを殺しに来たらしいな」
キッカの静かな声に、ティアリーゼは息を呑む。
しかし、偽ることはしなかった。




