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「私に触れた。……嬉しかった」

「シュクル、君は……。……そうか、そうだね」


 いち早くその言葉の意味を察したのは、シュクルの父どころか祖父とも面識のあるマロウ。その顔に小さな哀しみが浮かんでいるのも、シュクルのことを知っているからこそだった。

 シュクルはまた笑う。

 くすぐったそうに。そして、幸せそうに。


「私は触り心地がいいのだそうだ」

「のろけてんじゃねぇぞ、ガキ」

「わからない」

「……自分が恋をしていることを、周りに伝えなくてもいいということだよ」

「なるほど」


 ぴこ、と立った尻尾がまた床に落ちる。

 それが酔ったようにゆらゆらと揺れた。


「私は恋をしている」

「シュシュ、大人になったなぁ。んで、どんな子? 羽根の色は? 尾羽長い?」

「柔らかくて弱い」


 シュクルが呟くように言う。

 軽く握った自分の手を見下ろし、ぐっと力を入れた。

 ふん、とギィが鼻を慣らす。もう飽きたとでも言いたげだった。


「ちっ……。やっぱ、レセントは俺が管轄すりゃよかった」

「……そうだな。白蜥が治めるよりは、黒のが治めた方が有事の際に被害が少なくて済んだかもしれない」

「だよなぁ? ガキどもと違って話が合うわ」

「その話はまたの機会にしよう」


 マロウが穏やかに止め、改めてシュクルを見つめる。

 ゆらゆら揺れていた尻尾がぴたりと止まった。


「君の治める地は最も人間が多い。万が一なにかあれば、他への影響は計り知れないんだよ」

「わかっている」

「もし君がその勇者に打ち倒されるようなことがあったらどうするんだい」


 大陸を治める魔王にとってあってはならないことだった。

 絶対的な強さを持った存在がいるから、獣の性質が強い亜人たちは本能のままに動かず、王のもとに従う。共存の道を生きる南の大陸以外で、人間と亜人とがいがみ合いながらも生きているのは魔王の存在によるものが大きい。

 人間はすべての亜人を束ねる強大な王がいると知れば、うかつに手を出してこない。そしてまた、亜人も王の意に添わぬことはしない。

 例外はもちろんあるが、こうして均衡を取れているから今までなにも起きずにいられた。

 それが崩れることにでもなれば。

 そんな心配をにおわせたマロウに向かって、シュクルは滅多に見せない微笑を浮かべる。


「問題ない。私は白蜥の魔王だ」


 そしてシュクルは一言一言、刻むように言う。


「人間を滅ぼすことなど、そう難しくはない」


 お喋りなキッカも、口の悪いギィも、今回のシュクルに否定的なグウェンも、皆、口を開かない。

 その沈黙も気にせず、シュクルはまた機嫌よく尻尾を振り始めた。

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