表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/57


 極上のベルベットを撫でるような、そんな穏やかで柔らかい声が響いた。

 五人の魔王たちで最も年長者の『紅狐こうこの魔王』だった。名をマロウと言う。

 話では万を超える年数を生きているとされるが、こうして人の姿をしているときはそう見えない。落ち着いた雰囲気から年上らしさは窺えるが、見た目だけは若かった。


「また年寄りくさいと言われても知らないよ。二人を子供だと言うなら、君も大人になりなさい」

「マロウは大人っつーより爺ちゃんだよな」

「キッカ、人の話にくちばしを突っ込むのはやめるよう言わなかったかな」

「忘れちまったよ。俺、鳥頭だし。な、シュシュ」

「私に振らないでくれ」

「……くだらない」


 ふい、とグウェンは背を向けて部屋の奥に陣取った。

 円卓の椅子に座らないのは、せめてもの反抗だろう。

 それを紅狐のマロウは苦笑して見守った。


「元気にしていたかい、シュクル。若いのに君も大変だね」

「それほどでもない。そちらも先年の水害で苦労したと聞いた」

「ああ、あれか」


 マロウの治める地は複数の島々からなる南の国々。海に囲まれた地は問題も多く、特に昨年は大嵐でいくつもの島が沈んだという話だった。


「おかげさまでどうにかなったよ。ほら、うちは人間と我々の間に境目がないものだから、皆、協力し合うことに抵抗がない。困ったときはお互い様というものだね」

「わからない。先日、人間が我々の巣の一部を襲って回った」

「シュシュ、また会話飛んでる」


 どうしても黙っていられないキッカがやはり口を――くちばしを突っ込んでくる。

 そこに、だん、と鈍い音が響いた。

 音の先には、既に椅子に腰を下ろしている魔王が一人。

 ここにいる誰よりも人間に近い姿をしたその男はギィ・ナザクと名乗っていた。北の険しい山岳地帯を治めているだけあって、本人の気性も非常に荒い。

 今も、久々の再会に話を弾ませていたのが気に入らなかったらしく、いつもするように床を足で踏み叩いたようだった。


「足癖の悪さをなんとかしなさい」

「うるせえんだよ。いつまで茶番続ける気だ、おい」

「……同感だ」


 グウェンが乗ったことで、話していた三人は円卓へ向かう。

 椅子の数は五つ。ここに五人の魔王がすべて揃った。


「んでさ、シュシュの話。こいつ、人間に襲われたらしいぜ。なのにそいつを嫁にしようとしてるんだってよ。すげー性癖」

「キッカ、少し黙っていなさい」

「俺、喋ってないと死ぬ」

「だったら死ねや、クソガキが」


 いまだ魔王たちにも本性を明かさない『黒の魔王』が舌打ちする。

 机の上に足をかけるという行儀の悪さに、マロウが眉を寄せた。

 しかし既に諦めたのか、止めずにシュクルの方へ目を向ける。


「キッカから少し聞いているけど、人間が勇者というものを送り込んできたそうだね」

「いかにも」

「舐められてんじゃねぇよ。きっちり引き裂いてやったんだろうな?」

「シュシュがそんなことするわけねぇだろ。こんなにいい子なんだぞ」

「ああ?」

「話が脱線する。黙っていろ」


 再びギィとキッカが睨み合うのを見て、シュクルは困惑したように首を傾げた。

 ぱたり、とその尾が床を叩く。


「勇者と呼ばれていたようだが、勇者ではなかった。ティアリーゼは私への供物らしい」

「供物ぅ? なんじゃそりゃ、人間ってえぐいこと考えるな」

「……それはつまり、君の食事として差し出されたのかな?」

「恐らく」

「え、なに。人間食うの? マズそう」

「クゥクゥ、うるさい」

「うーい」


 一応返事はしても、キッカはまだ落ち着きがなかった。まだ話し足りないと思っているのは明確である。

 もう一度シュクルはぱたりと尾で床を叩いた。

 ティアリーゼを見て喜んでいるときのそれではない。シュクルなりに考え、言葉を選んでいるときの仕草だった。

 ずいぶん悩んでいる様子を見て、いくぶん空気を和らげたグウェンが話しかける。


「白蜥、お前は人間をどうしようとしている? 金鷹の話では……つがいにするつもりだとのことだが」

「いかにも」

「正気なのか?」

「狂っているのはあの人間の方だ」


 ふ、と笑った声が誰から漏れたのか、四人の魔王たちはすぐに気付かなかった。

 ややあって、シュクルのこぼしたものだと気付く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ