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 部屋に着くと、シュクルは相変わらずトトに文句を言われながら仕事をしていた。

 ティアリーゼが現れた途端、ぴんと尻尾が立つ。


「お仕事中にごめんなさい。トトさん、シュクルを貸してもらっていい?」

「少しだけならば構わないが、すぐに返してもらいたい」

「なぜ、私のことをトトが決める」

「王に任せると二つ返事で逃げ出すので」

「逃げたことなどない」


 ティアリーゼの様子を見に来るのは仕事を抜け出している範疇に入らないらしい。

 トトが額を押さえたのはともかくとして、ティアリーゼはすぐに手紙の内容を伝えた。


「お父様から手紙が届いたの。私がここで過ごしている話を聞きつけたのね。どういうつもりだったのか説明させてほしいと言っているんだけど……」

「つまり、お前は国へ戻るのか」

「そうね、少しの間だけここを離れることになるわ」

「一人で戻れるのならいいが」

「大丈夫よ。これでも私、もともと勇者だし。自分の身くらい自分で守れるわ」

「ならばいい」


(てっきり寂しがるかと思ったけど――)


 意外に思ったティアリーゼは、視線を下げてすぐに頬を緩めた。

 いつもティアリーゼの側にいるときは忙しなく動く尻尾が、今は落ち込んだようにへたっている。

 平気な顔をしていても、内心穏やかではないのだろう。


(戻ってこいと言われたのだから、もうシュクルの側に帰ってくる必要はない。だけど、私はもっとこの人たちの側で生きてみたい……)


「ちゃんと帰ってくるからね。おみやげはなにがいい?」

「いらない」


 ティアリーゼはその短い答えからシュクルの伝えたい気持ちを悟る。


「じゃあ、無事に帰ってくるわ」


 みやげよりも、ティアリーゼが帰ってくることの方が重要。

 自意識過剰かもしれないが、シュクルがそう思っているだろうとわかる程度には付き合いが長くなった。

 その場にしゃがみ、いつもするようにシュクルの尻尾を撫でる。

 トトがぎょっとした気配は感じたが、気にしないことにした。


「……私、聞きたいことを全部聞いてくる。そうしたらあなたにも教えるわね」

「待っている」

「うん」


 供物とはどういう意味だったのか。ティアリーゼがどういう扱いをされると考えて送り込んだのか。考えるのはやはり恐ろしいし、答えを知ったときのことを考えると息が止まりそうになる。

 それでも知ろうと思えるのは、いつも穏やかな感情を保ち続けているシュクルのおかげかもしれなかった。

 たとえ泣きたくなっても、シュクルは普段通りにしてくれるだろう。共感もなにもいらないと思っている今、ティアリーゼに必要なのはただ受け止めてくれる人の存在だった。

 きっと泣くことになると既に覚悟している自分がおかしかった。

 しかし、だからこそ前に進める。


「行ってくる。……いい子にしていてね」

「子供扱いしないでくれ」

「自分を雛だって言ったのはあなたでしょう」


 背伸びをしてシュクルの頭を撫でる。

 なんとなく納得いかない顔をされたが、それでも屈むあたり、ティアリーゼに触れられるのが本当に好きなのだろう。

 最後に頬に触れてから、今度こそティアリーゼは背を向けた。

 自分の真実と向き合うために。

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