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ティアリーゼの役目が勇者からシュクルの遊び相手となって、それなりの月日が経った。
タルツへ戻っていいのか判断できないまま過ごすうち、気が付けばメルチゥを始めとした城の使用人たちと仲良くなっている自分がいる。
果たしてこれが本当に正しい状態なのかと思う気持ちは拭えなかったが、今まで知らなかった亜人という人々の生活を間近で見るのは面白い。
いつの間にか、ティアリーゼはあまり亜人という言葉を使わなくなっていた。
人間ではないという蔑称に聞こえるというのがその理由だったが、当の亜人たちは気にしていないらしい。
平和に生き、過ごし、そしてたまに特別な幸せがあれば満たされる。それが彼らの生活で、人間のように必要以上のものを求めたり、他人を羨んだりはしない。だからこそ、蔑称だろうがなんだろうが基本的にはどうでもいい。
彼らは自ら分の持つ獣性を誇っている。小さなネズミでも、トカゲでも――まだティアリーゼは見たことがないが、もし虫がいるのなら虫でも、皆、変わらず自身を誇るのだろうと断言できた。
そんな彼らとの日々は眩しい。
最近はシュクルの言いたいこともなんとなくわかるようになってきたのだから、時間というのはすごいものである。
そんなある日のこと、メルチゥがティアリーゼの部屋を訪れた。
「ティアリーゼ様、お手紙が届いてます!」
「私に?」
くるくるよく動くメルチゥは、じっとしているのが苦手な質らしかった。
ティアリーゼが手紙を確認している間、そそくさと部屋の掃除をしている。
それを微笑ましく思っていたのも束の間、手紙を持つティアリーゼの手がこわばった。
(……これ)
そこに書いてあったのは懐かしい筆跡。
タルツにいる父王からのものだった。
「……シュクルは今、お仕事中?」
「ティアリーゼ様が会いたいとおっしゃるなら、休憩中になりますね」
(仕事を中断させるのは申し訳ないけど、伝えるべきことよね)
「わかったわ。ちょっとだけ休憩にしてもらいましょう」
「私、ここでお掃除をしていてもいいですか?」
「ええ。いつもありがとう」
「いいえ!」
最初に警戒していたメルチゥはもういない。今はティアリーゼ――というより人間――の使用した部屋を掃除する、という特別な仕事を心から喜び、そしてなぜか燃えていた。ティアリーゼにはわからないが、掃除しがいのある部屋らしい。汚くした覚えはないのに、と若干不安になったのは内緒だった。
後をメルチゥに任せ、手紙を持ったまま外へ出る。
向かうのはシュクルのもと。
この手紙に書かれた内容を伝えなければならない。




