表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/159

掃討戦3

 格納庫まで戻ってくると少年がロケット弾を運んでいた。


「無事だったんですね! すぐ安全になりますからもう少し頑張ってください!」


「大丈夫です」


 ここに至ってもアラドは静かなまま、注文数の納品を終えると地下へ引っ込んでいってしまう。武器庫の荷出しをしているようだ、地下と格納庫を往復するだけなら危険はなかろう。

 で、ロケット弾。完全な使い捨てタイプと砲身を使い回すタイプがあって、それをヒナは迷わず使い捨ての方を選択、4本ばかしアトラにまとめて持たせた。アンチマテリアルライフルと合わせてとんでもない重量である、人間だったらマトモに動けないレベルなのだが、人間ではない彼女は平然とした様子。ただ荷物運び扱いが気に食わなかったらしく渋い顔にはなった。


「何? これ撃ちまくればいいの?」


「北門を爆破したらね、外の防衛部隊が正面の敵とバンカーから出てきた敵とで挟まれてしっちゃかめっちゃかだから、とにかく門を塞いで挟撃を阻止する、ついでに中の敵を閉じ込めて投降を促す」


 駆け寄ってきたティーの言う通り、今まで耳に入れていなかったのだが、地下を制圧してる時も病院を奪還してる間もレアの悲鳴は止まなかった。現状ほぼ完全なハンバーガー状態にあり、それを考えるとかなり耐えている方であるけれども、もう後回しには出来そうにない。

 なので第一に壁の内側にいる敵がレア中隊へ接触出来なくする、門を通行止めにしてしまえば内外の連携を断たれた形となり、その後に壁方向へ全力で押し込めば外の挟撃状態は解消される、優勢を取りつつある内部でも逆転の目を潰せる。

 で、問題のその塞ぎ方であるが、壁の上を伝って忍び寄った部隊が壁を支える柱を吹き飛ばす。そうすれば支えを失った壁が落ちてきてすっぽり門を塞ぐのだと言う。


「爆破完了後、コレを一斉射撃して戦意を喪失させる。できれば降参して欲しいけど…しなくても同じさね、巻き返しは絶対に許さない」


「オーケー」


「さあ射撃位置に。キミらはこの格納庫の屋上に行ってくれ、一番派手そうだ」


 言われて、早足に格納庫を出、外の壁面に取り付けられたハシゴを登る。屋上はバンカー内で最も高く、敵兵の動きがよく観察でき、北門も視認できる。既に1人が双眼鏡と通信機で観測作業しており、彼以外には2人いるが、既に息を引き取っているようだ。


「絶対に立つな、匍匐前進だ」


「はい……」


「胸がキツいだろうが我慢しろ、嫌なら次からサラシでも巻いておけ。サラシどころか下着すら必要なさそうな奴らの真似してると」


『誰の事言ってんだおぃぃぃぃぃぃ!! イエス以外発言できない設定にするぞおるぁぁぁぁぁぁん!!』


『ハンマーで潰すのとノコギリで切り落とすのどっちがいいですかぁぁぁぁぁぁ!?』


「ふむ、自己宣言者が2人ばかしいるなぁ」


 登り終えてすぐアトラに言われたので横にぺたりと伏せ、そこで鈴蘭のスロートマイクが拾ったかアトラと同期してるティオが漏らしたか、いやたぶん意図的な誤送だろう、今の会話がアルファチームに届いてしまった。今の怒号が誰と誰のものかは伏せておく事にする、彼女らの名誉の為に、伏せる意味があるのかは別として。


『爆破まで30秒、準備急いで』


「はいはい早くこっち来るの」


 にやにや笑うアトラと共に手招きするヒナのところまで這って進み、屋上の端から少し引っ込んだあたりでライフルを構える。スコープの倍率を最大にして北門の方へ向ければ、壁の上をそろそろと走る味方兵士数人と、それに気付かず往来を続ける敵兵士が見えた。壁、というか装甲板は地面に深く打ち込まれた鋼鉄製で、サイズの不揃いなそれを平行にうまいこと2枚並べ、間にコンクリートを充填し、上に通路を作ってある、無骨な城壁と表現してもいい。しかし唯一、門上部の壁を構成する装甲板は地面に打ち込めないためいくつかの支柱で左右の板と接続されるのみで、爆破なんてしたら当然コンクリートは砕け、装甲板もすとんと落ちる、はず。


「10秒」


 観察は十分だ、ライフルを横に置き、体を旋回させて45度ほど角度を付ける。そのままロケットランチャーをアトラから受け取って、筒を引き伸ばしセイフティ解除、照準を北門方向へ向けた。これは後方爆風から逃れる為である、ロケットランチャーは発射時の反動を後ろから爆風を出す事で相殺するので、後方15m程度が危険域となる。体をまっすぐ伸ばして伏せ撃ちすると背中と足がこんがり焼けてしまうのだ、これだけは絶対やるなとしつこく教えられた。


「3、2、1、発破!」


 間も無く火炎が上がり、数瞬遅れで轟音が耳に届く。ガラガラとコンクリートが砕け、装甲板が傾いてずり落ちようとし


 それをほっそい支柱が踏みとどめた。


『ガッデム!!』


 他が次々と破断する中たった2本、隣の板に挟まったりでもしたのか直径10cmもない金属棒が左右1本ずつ残ってしまう。それによって北門は往来可能なまま、ただこちらの意図を敵に伝えて終わった。門付近の敵部隊が一斉に移動を開始、バンカーから脱出していく。


「左狙って」


「いつでも撃てる」


 盛大に悪態をつくティーに対して2人は冷静である、ヒナは素早く弾倉を入れ替え薬室の通常弾を手動で排出、キキンと床に落ちて鳴った実包をしっかり回収しつつスナイパーライフルの二脚を立てる。アトラはそれより早く照準を終えていて、ヒナの発砲に合わせて榴弾を撃ち出した。


『おっふ!?』


 飛翔速度の関係で8.6mm魔力貫通弾が先に着弾、青い残光が消えたかどうかのタイミングで25mm榴弾も爆発する。それぞれ寸分違わず支柱を破壊、止まった装甲板を改めて動かす。

 そうしてようやく北門は塞がった、装甲板を筆頭に大量のコンクリ片が崩れ落ちてきて、音と粉塵が収まった後には人間1人が通る隙間すら残っていない。


『よっ……よし撃て! 撃ちまくれ!』


 続いて鈴蘭がロケット弾を発射、着弾を待たず筒を放り捨て次を受け取り、また発射。4発すべて消費する間にそこかしこで同じ白煙が伸びていく、次々と爆発する。

 大勢は決した、内側はもう安全である。


 安全


「よし、じゃあアルファと合流して……とぉ…!?」


 なんて思った途端、病院の方向で爆発が起きた。


「畜生! 砲撃だ! すぐに降りるぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ