掃討戦1
「南部は安全確保した! そっちに逃げ込め! 反撃可能な隊は武器屋を押さえろ! 武装してる人数を増やすんだ!」
格納庫に立てこもるティーは敵のサブマシンガンを握っていた、サイズ、重量共にこちらのアサルトライフルに匹敵する大きさでスチール製、9mm拳銃弾が35発入る箱型弾倉を着け、有効射程150m。500m飛ぶ6.8mmライフルは当然、ストックを畳めば半分以下のサイズで200m飛ぶ4.6mmサブマシンガンに遥か及ばない。しかし完璧な奇襲を受けた以上フル装備をしている者はほとんどおらず、倒した敵の武器を使う兵士が大部分。
その後ろにはフェイとねーちゃんずが隠れていた、共に非武装、戦うつもりは無いようだが逃げもせず、少し遠くの地下工場入り口を見つめている。鈴蘭が隣に辿り着くとこちらに目を移し、特にティオを凝視、数秒してからねーちゃんずがフェイへ言う。
「妹さん?」
「なんでみんな私の家族を増やしたがるの……」
「いやだって、某ロボットゲームの二次創作がサイト方針変更により消滅したあと流れで作ったロボット一次創作で主人公やってた頃のフェイ氏に似てるというか」
「…………こんな百合百合してた? 私?」
とかなんとかやってる間にフェルトがティーに近付いて指示を取得、戻ってきた。承ったのはこの3人を工場まで送り届け、武器保管庫を開放、銃火器を持ち帰ってくる。
「アルファ、工場に向かうよぉ」
『了解、気をつけて』
「隊長さんはどぅ?」
『よろしくない、医者が必要だ。ブラボーを病院に向かわせてます、既に制圧されてるみたいですけど。そっちが派手に暴れれば向こうもやりやすくなる、支援は後でいいんで、今は戦力回復を』
『シオーン! やっぱり小隊長くらいならすぐなれるよねーー?』
『マジかぁーんべぇーん……』
以下、2個分隊分の人員を追加で押し付けられるシオンの悲鳴を聞きつつ、先日ティーが爆破した階段を視界の中央へ収める。幸いというか何というか鍵は無い、それはつまり敵も入っていけるという事でもあるのだが。
「走るよ、援護してね」
「はい」
フェルトは槍を組み立て、それを右手に、SMGをホルスターに戻す。ティオとハンドサインを交わしたのち鈴蘭へ言い、ライフルを持ち上げればまずティオが飛び出す。あれはほぼ絶対的な存在だ、躍り出た途端、飛んできた銃弾を当然の如く避け、その方向に突進、発射元を黙らせる。
今のうちだ、フェルトを先頭に鈴蘭以外が駆け出し、辿り着くまで周囲を監視。といってもティオが暴れ回っているので何も起きなかったが。階段の先に4人消えた後、無線越しにゴーサインが出され、鈴蘭も後を追う。地面の穴に飛び込めば入口にティオが仁王立ちして道を塞ぐ、普通ならアホな行動、しかし彼女は普通ではないので何ら問題ではない。
「ひひぃーーん!!」
今の馬のいななきはねーちゃんずの片方、たぶんクーだ。急いで階段を降りるとへたり込んで抱きしめ合うねーちゃんず、蹴り破られたドアの先にはティオとまったく対照的、急所以外に一切の傷を付けないスマートな殺され方をした北連兵が転がっている。その中央に立つフェルトは最後の1人を斬り終えた姿勢、ひゅんと刃を鳴らして血を払い、こちらに振り返った。
「っ…!?」
「大丈夫?」
一瞬、見られただけで背筋が凍りつくような、殺意しか伝わってこない目をしていた気がした。震えた時にはいつものふんわり笑顔に戻っており、頷く事で返答、急ぎ気持ちを落ち着かせる。
通路が安全になったと見るなり工場の扉が開いて、フェイが飛び込む。ひぃひぃ言うねーちゃんずもそれに続き、これで目的のひとつをクリア。後は武器保管庫だ、開放するには管理担当の生体認証が必要。
「工場前クリアしたよぉ」
『オーケー、データセンターから強制解錠する。必要なものがあったら持っていっておくれ』
しかし、小走りで近付くとジャストタイミングで僅かなブザー音が鳴り、ランプが赤から緑へ。フェルトを追って入室、金網の床をカンカン言わせながら進み、ショットガンを2挺取った。
『フェイ、アサルトフレームは起動可能?』
『試してみる』
一般的な12ゲージのショットシェルを7発装填できる、セミオート/ポンプアクション切り替え式のショットガンだ。1挺を渡してきたのでマークスマンライフルを背中に回し受け取る、弾薬箱から取った7発を下部の装填口へ突っ込み、フォアエンドをガシャコンやって1発薬室に送り、もう1発追加、そしてレアのグレネード弾みたいな弾薬ベルトを腰に巻く。フェルトは閃光手榴弾もいくつか取ったものの、今は使わないらしい、フリースジャケットの懐にしまい込む。
「メルちゃん、病院の方は?」
『全然手が出せない! 完璧に建てこもられた! 手術室に何人か味方が隠れてるみたいだけど!』
「わかった、すぐに行く」
この装備はそこで使うらしい、次は病院の奪還だ、これは本当に急がなければ。
2倍になった装備重量も何のその、降りたばかりの階段を駆け上がる。




